家族との取り決めに従い「●●料」を提示する事務所の誘いにはのらなかったおかげで、地に足をつけて生活することができました。おかげで、芸能界に近そうで近くない地下アイドルという職業に就いて、身の程を知りながら暮らしています。
思えば、あれだけ目を輝かせてスカウトされた話をしていた小中学校の同級生が、実際に芸能界入りすることはありませんでした。高校生になると、同級生に芸能活動のようなもの(私の地下アイドル活動も含む)をする子も増えましたが、スカウトがきっかけで活動を始めた子はほとんどいません。オーディションや、友人からの紹介で、それぞれの仕事を得ているようでした。
私は「地下アイドル」という、いまの仕事を始めると、売れていないのに、芸能界に対しての憧れもないという微妙な高校生になりました。同時に、スカウトの話を、一喜一憂することなく聞くようになり、「レッスン、登録料」目的の他にも、「芸能の仕事」と称したAV出演の勧誘が多いことに気がつきました。高校の教室では、街で出会うスカウトはAVや風俗に勧誘するもの、というのが常識でした。
たしかにAV女優がセクシータレントとしてテレビに出る時代です。しかし、そこに行きつくまでの苦労と確率の低さを考えると、スカウトマンが紹介するものを「芸能の仕事」と説明するのは、少し無理があるように思います。
否定的な話ばかり続けましたが、きちんとしたスカウトは存在します。アイドル業界でも、人気急上昇中のグループ「ゆるめるモ!」の一部メンバーは、スカウトによって集められました。ゼロから運営を始めたプロデューサーが、路上で声をかけることから始めたのです。その後、結成からわずか二年半ほどで、赤坂ブリッツでの単独ライブを成功させました。
非日常的に見える業界でも、人間関係の難しさなどは、日常と変わりません。悪質なスカウトに騙されないためには、渡された名刺の社名をネットで調べるのも、有効な手です。しかし、芸能活動を語った風俗スカウトマンなのか、やる気のある熱心なプロデューサーなのか、最終的には人を見極める力が必要です。本格的にその事務所で働くことになったとき、果たしてこの人と何年も苦楽を共にできるのか、冷静に考えるのは大事なことだと思います。