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酒鬼薔薇の手記 家族に関する記述だけは敢えて嘘を書いたか

 小学生5人が襲われ、2人が死亡、3人が負傷した、神戸連続児童殺傷事件。中でも、土師淳(はせ・じゅん)くん(享年11)が殺害され、1997年5月27日市立中学校の正門前でその頭部の一部が発見された犯行のあまりの残虐性に日本中が震撼した。

 さらに淳くんの口のなかからは、酒鬼薔薇聖斗を名乗る犯人からの挑戦的な犯行声明が見つかる。日本中を驚かせたのは、事件の概要だけではなかった。

 逮捕されたのが14才の少年だったことで、犯人は、「少年A」と呼ばれ、マスコミでは連日少年法の妥当性が問われる事態となったのだ。

 あれから18年。Aは、32才となり、手記『絶歌』(太田出版)を発売した。被害者遺族からの出版中止、回収の要求を無視。初版10万部は瞬く間に完売した。

 毀誉褒貶相半ばの出版劇となったが、女性セブンはこの機に、Aに関する総力取材を開始。すると、手記には書かれなかったAの思惑、そして極秘にされていた彼の近況が見えてきた。

『文藝春秋』5 月号で、Aの起こした事件に対する神戸家裁の判決文の全文が公開された。そこでは、当時の彼の犯罪心理として、「母への愛憎」の可能性を指摘していた。

《母は生後10か月で離乳を強行した。(中略)1才までの母子一体の関係の時期が少年に最低限の満足を与えていなかった疑いがある》(判決文より)

 精神医学用語でいう「愛着障害」の可能性に触れ、さらに母は排尿、排便、食事、着替え、玩具の片付けに至るまで、躾には極めて厳しく、スパルタ教育を施していたことが、後にAの心を歪ませた疑いがあるとしていた。

 実際、Aは小3の時の作文で、「お母さんはえんまの大王でも手がだせない、まかいの大ま王です」と書いており、この“母との歪な関係”がAの凶行を生んだ発端だと、逮捕直後からメディアでも盛んに叫ばれていた。

 しかし、Aは手記でこの定説を自ら否定する。

《母親を憎んだことなんて一度もなかった。母親は僕を本当に愛して、大事にしてくれた。僕の起こした事件と母親には何の因果関係もない》

《事件の最中、母親の顔がよぎったことなど一瞬たりともない》

 こう綴りながら、母との関係から事件を読み解いた報道の全てを事実誤認だと断じた。

 判決文を書いた、神戸家裁でこの事件の審判をした元判事・井垣康弘氏が語る。

「Aが長年母親に愛されていないと感じており、厳しい躾を虐待と捉え、それらが自己肯定感を欠落させる原因になったことは、裁判時の精神鑑定からも明らかです。鑑別所に初めて面会に行った母親に対して、“帰れ豚野郎!”と怒鳴り、心底の憎しみをもって睨み付けたこともありました。

 Aは、手記の中で家族に関する部分だけは敢えて嘘をついたのでしょう。この手記が、将来的に現れるかもしれない友人、恋人への“家族紹介”の役割を担っているからです。同時に、彼が家族に対して徐々にオープンになってきている証でもあります。母の存在が事件の伏線になっていることを隠し、良い思い出だけを選び抜いて書いたのだと思います。実際、父や弟を含め、家族のことについては一切悪いことを書いていませんからね」

※女性セブン2015年7月2日号

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