政界は岸信介、田中角栄、後藤田正晴、中曽根康弘。財界は五島慶太、鈴木敏文、小倉昌男、永田雅一、堤康次郎。文化スポーツ界からは稲尾和久、東山千栄子、田河水泡、土門拳、田中絹代、ミヤコ蝶々、中村歌右衛門、森光子、平山郁夫等、本書では計70名のエピソードを紹介。さらに終章「あなたも「私の履歴書」を遺す―自分史をまとめるコツ」まで付録につく。
実は歴代筆者、788名(今年5月時点)の内、戦後生まれは岡本綾子ただ1人。戦争のない70年の以前には〈戦争だらけ〉の80年が横たわり、また昔の「貧乏」と今の「貧困」では何かが明らかに違う。
ソ連参戦後、南樺太から命からがら逃げ延びた大鵬が〈いい選手をそろえて強くなった巨人と、裸一貫、稽古、稽古で横綱になった私が何で一緒なのか〉と書くように、昭和の貧乏は成功への原動力として機能し、むしろ人と人を結びつけていた印象すらあるのだ。
「小学生で奉公に出た松下幸之助や、〈お前みたいな汚い子は来るな〉と言われた本田宗一郎のような例は少ないですけど、貧乏でも頑張って大学へ行けば、金持ちの友達もできる。その間に今ではあり得ない金の貸し借りがあり、貧しい同士でも支え合っていた。今は金持ちも貧乏人も自分を守るのに必死で、その分消費者金融が儲かるんだろうけど、友情の形そのものが今とは違うんだと思います」
また東郷青児の無名時代に絵を質草に取ってくれた質屋は、わざわざ成功した東郷を訪ねて正当な代金を支払い、棟方志功が文展に初入選した際、画家仲間は自分の結果も見ずに〈大変だア、大変だア〉〈版画特選だァ〉と言って雨の中を裸足で駆け付けた。