国内

依存症患者から逃げるべきか 専門家紹介する支援団体はある

 家族や仲の良い友人が薬物、アルコールなどの依存症に陥った場合、私たちはどうすれば良いのだろうか。「共倒れ」を防ぐため逃げることもできる。だがそれで本当にいいのか。コラムニストのオバタカズユキ氏が考える。

 * * *
 このところツイッターで、しばしば流れてくる同種のつぶやきの存在に気づいた。今また流れてきたので源流に相当するツイートを確かめると、リツイート数が7625で、お気に入り数が4303。リンク先を貼って引用の形式で流されている場合も多いので、拡散量はもっと大きいはずだ。元のツイートが投稿されたのは2012年の秋である。3年近くも前からコツコツと広められてきた、つぶやき界のロングセラーともいえる。

 そのツイートは、およそこんなことを言っている(適宜、書き換え)。

~昔、小学校にやってきた更生施設の人の講演内容が忘れられない。その人は、もし身近な誰かが薬物の中毒になっても、絶対に助けるなと言った。中毒者は周りの者もずたずたにするから、近くにいたら逃げなさい、と~

 小学生相手にそんな講演をする更生のプロがいるものかなあ、とやや首を傾げるが、リツイートされ続けているのは、一定のリアリティがあるからだろう。実際に、自分の周りに中毒者がいて大変な思いをした(している)と思われる人たちが、このツイートの拡散する傾向もある。

 今は薬物中毒ではなく、薬物依存と呼ぶが、危険ドラッグ問題は行政による強引な摘発で鎮静化(もしくは地下潜行化)しているものの、向精神薬を濫用する薬物依存は深刻の度合いを増しているという。また、2014年の厚生労働省の調査によると、この国にはアルコール依存症の患者が109万人、ネット依存の疑いのある者が421万人、ギャンブル依存症の疑いのある者が536万人いるとされる。

 どれか1つのみの依存症というケースは少なく、1人で何種かの依存症を併発していることのほうが多い。数字は重複しているわけだが、それでもざっくり数百万人の日本人が社会生活に支障が出るほど何らかに依存していると思われる。

 そんな依存症について理解を深めるNHK主催のイベントが、先日、東京の浜離宮朝日ホールで行われた。酷暑の日曜日にこんな重たいテーマを扱ったにも関わらず、定員約400人の会場は満席。13:00から15:30まで内容てんこもりで、その方面の素人である私はかなり参考になった。

 イベントは、依存症患者やその家族の姿を追ったビデオを挟みつつ、シンポジウム形式で進行。自傷行為や自殺分野の専門家である精神科医の松本俊彦氏、当人もアルコールなどの依存症に苦しんでいたダルク女性ハウス代表の上岡陽江氏、ご子息が薬物依存症を患った仙台ダルク家族会代表の伏見忠義氏がパネラーとして解説や体験談をし、司会の荻上チキ氏が産業用ロボットのように手際のよい見事な論点整理を行った。

 ちなみに「ダルク(DARC)」は、Drug Addiction Rehabilitation Centerの略で、薬物依存者の回復と社会復帰支援を目的とするNPO法人である。日本全国に入寮施設を有し、我が国の依存症リハビリの最前線ともいえる非医療機関だ。

 イベントでは、前記したような依存症患者の実態から、依存症のメカニズムや症状、治療の最前線までを分かりやすく、かつ生々しく説明してくれた。その中でもとりわけ印象深かったのは、上岡氏が強く主張した「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか、って言いますけど、現実の依存症はその2択ではないんです。依存しながら生きていていいんです」という話だった。

<甘い誘惑、ひと時の快楽。覚せい剤は確実に、そして無残に人間を破壊します。覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか――>

 これは日本民間放送連盟が麻薬撲滅キャンペーンで使っていたキャッチフレーズだ。釘が打ちこまれていくたびにひび割れが増え、最後はバラバラに砕け散る人間型の金属板みたいな映像を見せながら、「甘い誘惑、ひと時の快楽~」とフラットな男性のナレーションで聞かせる暗いCM。かつては(今も?)深夜番組の途中にいきなり流れて、気持ちが落ちこんでいる時などは、さらに地獄へ落とされたような気分にさせられたものである。麻薬撲滅の役に立ったかは不明だが、世間一般に覚せい剤の世界の気味悪さを広く伝えたことは確かである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン