スポーツ

愛甲猛氏 甲子園で優勝直後に風俗店でサイン会を依頼された

 松坂大輔を輩出した野球の名門・横浜高で1年生からエースに君臨し、3年時の1980年夏には早実の荒木大輔に投げ勝って優勝した投手が愛甲猛だ。甲子園の優勝投手となれば当時も今もアイドル扱いだが、愛甲氏は見事に青春を謳歌していたようだ。優勝の栄冠を掴んだ高校3年生の夏を、愛甲氏が振り返る。

 * * *
 最後の夏の大会前はまさに野球漬けだった。朝練後、ユニフォームの上に学生服を羽織ってホームルームに出席、1時間目が始まる前に球場に向かった。日暮れまで練習して夕食後はマシンで打撃練習。終わるのは22時過ぎだ。悪さをするヒマもなかった。

 県大会では7試合中6試合完封して甲子園を決めた。当初の部員の目標は、国体出場条件のベスト8だったが、監督が知事への挨拶で「優勝旗を持って帰ります」と宣言してしまい、これが新聞に大きく出たことで優勝を目指すしかなくなった。

 最後の夏ももちろん宿舎からは外出禁止。2回戦以降は親とも面会禁止になった。外に出られないので部屋のトイレが唯一の息抜きの場になった。そのまま決勝まで進み、最後の相手は早実の荒木大輔。1年坊主には負けられない。大輔の連続無失点記録を阻止し、試合も6対4で逃げ切った。甲子園優勝を決め、これでまた人生が変わっていくのがわかった。

 新横浜に帰ってくると駅前を人が埋め尽くしていた。嬉しいというより怖くなった。家の前には朝から女の子が大勢待っていて、弁当をくれる子もいた。見知らぬ親戚や知人も増えた。

 一番変わったのが先生の態度だ。授業中に校内放送で副校長室に呼ばれると、「お客さんにサインをして欲しい」という。体育教官室には300枚の色紙が置いてあり、「愛甲君、お菓子を食べながら書いてよ」ともいわれた。

 サインといえば普通では考えられない場所でも書いた。知り合いの会社社長にいわれてついていったら、堀之内のソープランドだった。ソープ嬢からは「昨日のパレードに行ったよ」といわれ、待合室ではソープ嬢たちに囲まれて即席のサイン会が開かれた。

 こんな経験ができたのも、甲子園で優勝したからだと思う。甲子園はやはり特別な存在だ。この時期になると、プロのロッカーでは甲子園に出場していないヤツはバカにされていたし、「甲子園に出たかった」と口を揃える。野球人にとって甲子園は、今も昔も別格だ。

■愛甲猛(あいこう・たけし)/1962年、神奈川県生まれ。横浜高では1年からエースとして活躍、3年時に全国優勝を果たす。プロ入り後は野手に転向。ロッテ、中日で勝負強い打撃を武器に活躍した。現在はインターネット動画サイト「ニコニコ生放送」でトーク番組を放送中。

※週刊ポスト2015年8月14日号

関連キーワード

トピックス

中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン
渡邊渚アナのエッセイ連載『ひたむきに咲く』
「世界から『日本は男性の性欲に甘い国』と言われている」 渡邊渚さんが「日本で多発する性的搾取」について思うこと
NEWSポストセブン
 チャリティー上映会に天皇皇后両陛下の長女・愛子さまが出席された(2025年11月27日、撮影/JMPA)
《板垣李光人と同級生トークも》愛子さま、アニメ映画『ペリリュー』上映会に グレーのセットアップでメンズライクコーデで魅せた
NEWSポストセブン
リ・グァンホ容疑者
《拷問動画で主犯格逮捕》“闇バイト”をした韓国の大学生が拷問でショック死「電気ショックや殴打」「全身がアザだらけで真っ黒に」…リ・グァンホ容疑者の“壮絶犯罪手口”
NEWSポストセブン
“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「山健組組長がヒットマンに」「ケーキ片手に発砲」「ラーメン店店主銃撃」公判がまったく進まない“重大事件の現在”《山口組分裂抗争終結後に残された謎》
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン