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佐野眞一氏 小林よしのり新作『卑怯者の島』から死を論じる

【書評】『戦後70年特別企画 卑怯者の島』小林よしのり/小学館/1944円
【評者】佐野眞一(ノンフィクション作家)

 今年4月、天皇・皇后両陛下が戦没者慰霊のため訪問された西太平洋パラオのペリリュー島が、先の大戦中最悪の激戦地だったことを知る人は少ない。約1万人の日本兵のうち最後まで生き残ったのはわずか34人だった。米兵も約1800人が戦死し、数千人が精神に異常をきたした。

 この島で行われた文字通りの肉弾戦を活写した本書は、どの頁からも日米両兵士の肉片が飛び散り、真っ赤な血しぶきがあがる。

 作者は、先の安保法制審議を「これではどんな解釈でも憲法を改憲できる。日本は自衛隊を戦争に送るつもりか」と批判した。その強い怒りが、500頁もの大書を書かせた。

 戦闘の悲惨さは、米国の未公開フィルムにより昨年NHKでも放映された。日本兵に殺された3人の米兵の口には切り取られたペニスが押し込まれ、それを見た同僚兵は怒りのあまりトンネル陣地に潜む日本兵に銃を乱射し、17人を皆殺しにした。

『卑怯者の島』は、狂気の戦場だけでなく、内地の許嫁の平穏な生活や、生きている実感が持てず簡単に殺人に走る戦後70年目の若者の姿も描いている。その視点の広さが本書に「日本人よ、戦争を忘れるな」という強いメッセージを付与している。

 殺さなければ確実に殺される兵士たちに比べ「人を殺してみたかった」という言葉の軽さはどうだろう。読後、人肉食いの噂が絶えないフィリピン戦線体験を描いた大岡昇平の『野火』の一節を思い出した。

 復員後、病院に入院した主人公はなお戦争を煽る新聞を見て、呟く。「戦争を知らない人間は、半分は子供である」

※女性セブン2015年8月20・27日号

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