「フジテレビの場合は専務取締役の遠藤龍之介さんも、小説家の遠藤周作の長男ということで、昔から有名人の子息を採用することへの抵抗が少ない会社なのかもしれません。民間企業であるテレビ局が誰を採用しようが自由なのですが、マスコミはジャーナリズムという使命も背負っています。世間一般ではコネ入社が”ズル”と考えられているわけで、”世の不正を正すべき報道機関がズルをしていいの?”というふうに見る人は多いでしょうね」(碓井さん)
例年、テレビ局の採用枠は、民放のキー局でも10~20人程度だ。採用枠が狭いうえに人気業種のため、倍率は数百倍にもなる。有名人の関係者に内定が出たことが知れわたれば、数万人の就活生からブーイングを受けることはわかりきっている。それでも有名人の関係者を採用し続けるメリットはどこにあるのか。
「例えば藤井フミヤさんの息子さんが実際に入社したとします。それで藤井フミヤさんに番組作りのサポートをしてもらうとか、そういったメリットを考えているわけではないと思います。それよりも、”音楽業界を大事にしているフジテレビ”ということを対外的に見せて、音楽業界との親和性を高めたいという思惑のほうが強いでしょう」(碓井さん)
政治家の血縁関係者がいることのメリットはどうだろうか。フジテレビには前述の安部首相の甥がいるが、小渕恵三元首相の娘・小渕優子衆院議員(41)がTBS、石原慎太郎元東京都知事(82)の息子・石原伸晃衆院議員(58)が日本テレビの元社員だったように、政治家とテレビ局は採用において昔から蜜月関係にある。
「政治家の子供を採用しておいて、恩を売っておくのも悪くない、という考えもあるかもしれません。彼らはいずれ、局を辞めて政治家になる可能性もありますので。政治家の子供だからといって永田町の情報をダイレクトに入手できるわけではありませんが、普通の記者なら門前払いの取材先も、『〇〇の娘です』なんていえば、簡単に取材オーケーとなることもあります。そのように親の看板を使って、バラエティー番組やグルメ番組などの取材でも、普通なら撮れない映像を撮ってくるということは考えられます」(碓井さん)
確かに、そう考えれば実務上のメリットは計り知れない。コネも何もない“使えない社員”よりは局にとっての利点は大きいだろう。しかし一方で、政治家の血縁関係者を採用することが、報道機関として自己矛盾を抱えることにもつながると碓井さんは指摘する。