ライフ

【書評】経済発展の動力であった人の多さを“敵視”したツケ

【書評】『人口蒸発「5000万人 国家」日本の衝撃 人口問題民間臨調 調査・報告書』一般財団法人 日本再建イニシアティブ著/新潮社/1500円+税

【評者】関川夏央(作家)

 日航機が墜落し、不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」が放映された一九八五年頃から、日本のTFR(合計特殊出生率=ひとりの女性が生涯に産む子供の数)は急速に低下した。しかし「バブル経済」に向かおうとする時期、誰も深刻な危機感を持たなかった。

「1.57ショック」に襲われたのは九〇年である。「丙午(ひのえうま)」生まれの女性は気が強すぎて家を滅ぼすという言い伝えから、それにあたる六六年のTFRは1.58と、当時としては異常に深い谷をつくった。戦後二十一年たっても「丙午」を気にしていたことにまず驚くのだが、その数字を下まわった「ショック」という意味だ。

 七〇年代なかばまで日本人は、人口が経済発展の動力であったにもかかわらず、人の多さを「敵視」してきた。ところが持続的なTFRの低迷は、数十年後、人口減少と六十五歳以上二七パーセントという異常な人口構成の社会を出現させた。社会保障費は限りなく増大、赤ちゃんは国の借金八百万円強を抱えて生まれてくる。

 このままでは日本は、静かな、寂しい、老いた小国となり果てる。それは誰の目にも明らかなのに、長期的対策を掲げても選挙には勝てない。十年後の不安の解消は「先送り」される。まして二十年後、三十年後となれば、たんに思考停止である。

 そのうえ投票だけは欠かさない老人世代が、自分たちに有利であれと数を頼んで圧力をかける「シルバー民主主義」が世代間対立をあおる可能性がある。

 若い夫婦が欲しい子どもの数は2.4人だという。しかし実際のTFRは1.4台、人口の増減がない置換水準、2.07とは差がありすぎる。

 一九九〇年代から二十年間つづいた経済不振を「第二の敗戦」という向きがあるが、人口減少こそが「敗戦」ではないか。日本再建イニシアティブ理事長の船橋洋一のそんな危機感を動機としたこの本を読むと、事態は私たちの思っているより三倍くらい深刻だ。

※週刊ポスト2015年9月18日号

関連記事

トピックス

〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
NEWSポストセブン
逮捕された谷本容疑者と、事件直前の無断欠勤の証拠メッセージ(左・共同通信)
「(首絞め前科の)言いワケも『そんなことしてない』って…」“神戸市つきまとい刺殺”谷本将志容疑者の“ナゾの虚言グセ”《11年間勤めた会社の社長が証言》
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“タダで行為できます”の海外インフルエンサー女性(26)が男性と「複数で絡み合って」…テレビ番組で過激シーン放送で物議《英・公共放送が制作》
NEWSポストセブン
ロス近郊アルカディアの豪
【FBIも捜査】乳幼児10人以上がみんな丸刈りにされ、スクワットを強制…子供22人が発見された「ロサンゼルスの豪邸」の“異様な実態”、代理出産利用し人身売買の疑いも
NEWSポストセブン
谷本容疑者の勤務先の社長(右・共同通信)
「面接で『(前科は)ありません』と……」「“虚偽の履歴書”だった」谷本将志容疑者の勤務先社長の怒り「夏季休暇後に連絡が取れなくなっていた」【神戸・24歳女性刺殺事件】
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト