国内

GHQ 民主主義を賛美する親米的映画で日本人の歓心をかった

 戦後初期、軍部の抑圧から解放された表現者たちは、創作意欲を漲らせていた。しかし、GHQという新たな抑圧者が現れる。いかにして、検閲の目をかいくぐり、焦土と化した日本に新たな芸術の芽を育んだのか。巨匠・黒澤明の静かな戦いを思想史家・片山杜秀氏が追う。

 * * *
『七人の侍』。黒澤明監督の傑作だ。1954年の映画。
 
 題名通り、7人の侍が活躍する。野武士に襲われ放題の農村。村のわずかな蓄えをはたいて、7人の浪人者を雇う。日米安保体制の写し絵。そうとも言われる。自衛力の著しく不足する農村が、平和憲法下の日本。7人の侍は米軍。そう解釈できなくもない。
 
『七人の侍』は群像劇である。7人みんなが主役。とはいえ、ひときわ目立つ侍はいる。三船敏郎扮する菊千代だ。しかもどうやら彼は実は農民。武士を偽っているらしい。刀も満足に振り回せない。徒手空拳で豪快に暴れる方が得意。いかにもニセ侍である。
 
 そんな菊千代とは、まさに三船という役者を活かすべく作り出されたキャラクターだ。三船はそもそも殺陣の訓練のしみついている俳優でなかった。絵になる美しさで刀を振るのとは別のアクションの流儀を身に付けていた。
 
 三船敏郎は戦後日本映画界の大スター。1920年に中国大陸の青島で生まれ、大連で育った。大連中学を卒業してから陸軍の兵士を6年。戦後、偶然が重なって映画俳優に。デビューは1947年の『銀嶺の果て』。脚本は黒澤明。監督は谷口千吉。
 
 どんな作品か。山岳アクション映画である。3人のギャングが警察に追われて冬山に逃げ込む。まるでハリウッド風の現代活劇だ。戦後初期にはそういう映画が多かった。そこにはアメリカ占領軍の意向が働いていた。活劇を作りたいなら洋風に。日本の映画界はそう方向づけられていた。
 
 アメリカは戦後日本を可及的速やかに民主的で親米的な国に変えようとした。そのためには政治や経済や社会の制度をいじるだけでは足りない。肝腎なのは文化芸術。人間の価値観を作り上げるものだ。
 
 さて、当時の日本の国民的文化かつ娯楽といえば? 映画だ。民主主義を賛美する親米的な映画が量産されなければならない。逆の種類の映画は決して作らせない。軍国主義への郷愁をかきたてるものや反米的なものは一切禁止。企画案、脚本、撮り上がったフィルム。すべての段階に占領軍の検閲官の目が光った。

関連記事

トピックス

出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を演じる稲垣吾郎
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演、稲垣吾郎インタビュー「これまでの舞台とは景色が違いました」 
女性セブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反容疑で家宅捜査を受けた米倉涼子
「8月が終わる…」米倉涼子が家宅捜索後に公式SNSで限定公開していたファンへの“ラストメッセージ”《FC会員が証言》
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン