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VW問題 不振の北米市場の改善急ぎ技術開発より不正選んだ

VWは北米市場の不振に苦しんでいた

 米環境保護局(EPA)の調査で発覚した、独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車不正行為。その背景には、トヨタに追いつき追い越せで販売台数世界一になることを至上命題にしてきたプレッシャーがあったとされる。

 今でこそ世界最大の自動車市場は中国になったが、北米市場を抜きにして世界の覇権は狙えない。

 2014年の米国の自動車市場シェア(マークラインズ集計)は、トップのGMが18.3%、2位のフォードが14.7%で、トヨタは3位に食い込んでシェア14.3%だが、VW社のシェアは2.3%に過ぎず、大きく水をあけられている。苦戦の理由について、日刊自動車新聞の斎藤匡取締役はこう語る。

「米国ではVWのイメージはあまりよくないのです。1970年代にラビット(ゴルフ)、1980年代にはアウディの不具合が相次いで発覚し、悪いイメージが定着してしまった。さらに、VWが得意とする中小型の分野では日本車がライバルとして立ちはだかったため、伸び悩んだのです」

 VW社にとって、ブランドイメージを回復することが急務だったのだ。自動車産業を専門とするアナリストは、ブランドイメージ向上の切り札として準備されたのが、ディーゼル車だったという。

「トヨタにはプリウスなどの低燃費なハイブリッド車があり、北米市場ではブランドイメージが高い。それに対抗するために、低燃費なディーゼル車を安い価格で投入せざるをえなかったと考えられます」

 1997年に世界初のハイブリッドカーとして登場したプリウスは、北米にエコカーの時代をもたらした。ジュリア・ロバーツやレオナルド・ディカプリオなどハリウッドセレブがアカデミー賞の授賞式会場に乗り付けて話題をさらったこともある。

 プリウスに環境性能ではかなわないものの、ディーゼル車は一般のガソリン車に比べて燃費がいいうえ、2割ほどCO2排出が少ない。VW社は世界一という悲願達成のため、“環境にいい”ディーゼル車を北米市場で売ろうとした。

 しかし、問題はCO2ではなく公道走行時に排出される有害なNOx(窒素酸化物)だった。米国の世界一厳しい排ガス規制のなかでもNOxの規制はとくに厳しい。規制値は日欧より厳しく、しかも19万km走行後も規制値をクリアしなければならないという過酷な条件がある。

 欧州で売れている自動車の2台に1台はディーゼル車で、米国でも実力で排ガス規制をクリアできれば、ディーゼルにも勝算はあったかもしれない。しかし、VW社は規制をクリアするためにカネと時間をかけて技術開発するという道を選ばず、不正に走ってしまったのだ。

※週刊ポスト2015年10月16・23日号

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