◆サブスク業界、今は争っている場合ではない
いずれも数百万ダウンロードを達成したが、無料期間を終えると解約者が増える傾向にあり、いかに有料会員を増やすかが勝負の鍵となっている。ここで「勝負」と書いたものの「まだその状況ではない」と語るのは、AWAのプロデューサー・小野哲太郎氏だ。
「元々は4社+αでサブスク業界は争われると報道されていましたが、実際のところ、業界の空気としては『連合軍』として、違法アップロードされた音楽と闘っている状態にあります。元々日本にあったレコチョクBestとKKBOXも含め、レーベルやアーティストの許諾を得た会社同士で潰しあうのは意味がありません。以前、業界のイベントに参加したことがあるのですが、各社の登壇者とはそういった形で意見が一致しました」
アーティストの中にはサブスクリプション型の配信に積極的ではない人もそれなりにいる。サザンオールスターズ、ジャニーズ、Mr.Childrenなどがそうだが、違法アップロードされた音楽では聴くことができるものの、正規に契約されたサービスでは聴けないという状況にあるのだ。だからこそ業界関係者はもどかしさを感じている。別のサブスクサービスの関係者が語る。
「サブスクサービスの場合、IT企業と音楽会社が組んでやっているわけですが、現状、IT系企業が赤字を垂れ流して音楽を盛り上げようと頑張っているのだから、音楽会社には柔軟に考えてもらいたいんですよね。『聞き放題なんてしたら、CDが売れなくなるじゃないか!』と言う人が案外多いです。6000億円市場に戻すために色々新しい取り組みをしなくてはいけないのに、足並みがなかなか揃わない……」
音楽を曲単位でダウンロードするサービスが誕生した時と同様の議論が発生しているのだ。それは大御所になればなるほど顕著で、彼らはCDでもライブでも稼げるため、敢えてサブスクに楽曲を提供するインセンティブがない。そこで一つの打開策となるのが、「サブスク発売れっ子」の登場だろう。前出・小野氏が語る。
「AWAには現在国内外の主要レーベルの楽曲が数百万曲配信されていて、日々楽曲数が増えている状態です。少しでもチャンスをつかもうとしている若手からすると、チャネルが増えたことはありがたいことだという声が出ています。若手にとってはチャンスが増えるのは良いことと捉えているようです。なので、トップクラスのアーティストを追いかけ、楽曲配信をしてもらうのも必要ですが、次の時代を作るアーティストの誕生が重要だと考えています。現在メインステージでトップアーティストとして活躍している人たちだけに焦点を当てるのではなく、新しいステージに合うアーティストをサブスクリプション発として育てていけるといいなと思っています」
音楽会社が「快眠アプリ」を作ったり、IT会社と組んで配信ビジネスを行うなど、ありとあらゆる取り組みが求められる時代になっているわけだが、前出、西寺氏によるとこれは当たり前のことだという。
「マイケル・ジャクソンの評価も、時代の空気によっても、死後にも大きく変化しました。その最大の効果は映画『This is it』の公開があったことだと思います。意外にあの映画こそ、もしかすると彼の代表作なのかもしれないと思うことがあります。記録されたその「死」をもってして、世界に自らの音楽人生を伝えたわけですから。彼は幼少期の登場から、人生そのものをパッケージングして波乱万丈のコンテンツにできた稀有な人だった。僕のような普通の暮らしを過ごしてプロになったような人間は、その『コンテンツ』を作らなければならないんです」
その変化についていける企業・アーティストであれば、明るいとの見方をすることこそ必要で、いつになっても「CDが売れた時代は良かった……」と言ってる場合ではないようだ。