もちろん宗教的戒律もある。先述のラーメン店でも「豚は食べられない」というお客さんのために、鶏だけのスープを使った店を探し、直接お店に確認し、紹介する。鎌田さんは本の中で「日本の食文化は幅広いといわれるが、ベジタリアンひとつとっても苦労する。そういう意味ではむしろ狭いのではないか」と指摘している。
そういう話をしていると今度は「ヒジャーブ」をかぶった若い女性が鎌田さんになにごとか相談していた。
「イスラムのお客さんなんですが、お祈りする場所を聞かれたので、ホステル内のあまり人が来ないスペースを教えました。お祈りの場所は本当によく聞かれるんですが、そこまで広い建物ではないので、専用スペースを設ける余裕がないんですよね。外国人観光客ブームというなら、公共施設としてお祈り場所を作るのも必要ではないでしょうか」
鎌田さんと話していて、五輪誘致から流行語になった「おもてなし」について考え込んでしまった。
2020年東京五輪にあてこんで、「日本のいいところをみてもらっておもてなししよう」と行政も企業も躍起になっているが、しょせんそれは、自分たちが褒めてほしいところを見てもらい、買ってもらおうとする感動の押しつけではないか。本当の「おもてなし」とはベジタリアンのために焼き鳥屋の大将に交渉したり(「いいよっ」とオッケーした大将もおもてなしの人だ)、イスラムの人のためにお祈り場所を探してあげることだろう。
最近、テレビで外国人が「日本のここが素晴らしい!」と褒める番組が多い。ホステルにも協力申し込みがあるという。
「お客さんにこの日本料理を褒めて欲しいとか、ポイントが最初から決まってる企画もあるんです。でも彼らが日本のどこに感動するのか、そこが私たちにとっても発見でもあるし、面白いところじゃないですか? 最初から褒めるポイントが決まった番組のご依頼はお断りしました」
外国人観光客数が過去最高で浮かれずに、もう一度「おもてなし」という意味を考え直した方がいいかもしれない。あと「お祈り場所」は早急に作ろう。