今や中国は米国にとって必要不可欠な巨大市場である。2015年9月に米国を公式訪問した習近平・国家主席はボーイング社から300機、計380億ドル(約4兆6900億円)分の航空機を購入すると表明。アマゾン、マイクロソフトなど米国を代表するIT企業のトップと面会して「相互依存関係」をアピールした。オバマ大統領も「中国からの投資が米国の雇用を支えている」と最大限のリップサービスを送った。

 さらに中国は、反米色の強い中南米諸国との貿易拡大や経済援助により、米国の「裏庭」への影響力を強めている。

 2014年暮れに中国は、中米地域で太平洋とカリブ海、大西洋をつなぐ全長278kmの「ニカラグア運河」の建設に着工した。40万t級の船舶が航行する運河の管理権を中国が握る。護衛のためとして人民解放軍を常駐させれば、米国の喉元に匕首(あいくち)を突き付けることになる。危機感を抱いた米国は急遽、長年不仲だったキューバとの国交回復交渉を始めた。

 経済力と軍事力を背景に急速に増長する中国と正面から衝突するより、揉み手で懐柔するほうが米国としても得策だ。ゆえに両国は表面上、正面衝突の危険を煽りながら、テーブルの下では固く手を握り合っているものと見て間違いないだろう。

 今回の南シナ海のケースでは2016年秋に大統領選を控える米国の内政事情も働いた。「自由・平等・民主・人権」を国是とする米国のオバマ大統領は南シナ海での中国の横暴に対抗し、「強い大統領」と「頼れる民主党」を国民にアピールする必要があった。ただし、大規模な艦隊の派遣がなかったことからも、今回の対立がジェスチャーに過ぎないことは明白である。

【プロフィール】杉山徹宗(すぎやまかつみ):東京都出身。1965年慶應義塾大学法学部卒。米・ウィスコンシン大学大学院修士課程修了。カリフォルニア州立大学非常勤講師を経て明海大学教授に就任(現・名誉教授)。(財)ディフェンスリサーチセンター専務理事、自衛隊幹部学校講師。著書に『中国の軍事力 日本の防衛力』、『「米中同盟」時代と日本の国家戦略』(いずれも祥伝社刊)など多数。

※SAPIO2016年1月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ギャンブル好きだったことでも有名
【徳光和夫が明かす『妻の認知症』】「買い物に行ってくる」と出かけたまま戻らない失踪トラブル…助け合いながら向き合う「日々の困難」
女性セブン
日米通算200勝を達成したダルビッシュ有(時事通信フォト)
《ダルビッシュ日米通算200勝》日本ハム元監督・梨田昌孝氏が語る「唐揚げの衣を食べない」「左投げで130キロ」秘話、元コーチ・佐藤義則氏は「熱心な野球談義」を証言
NEWSポストセブン
破局報道が出た2人(SNSより)
《井上咲楽“破局スピード報告”の意外な理由》事務所の大先輩二人に「隠し通せなかった嘘」オズワルド畠中との交際2年半でピリオド
NEWSポストセブン
河村勇輝(共同通信)と中森美琴(自身のInstagram)
《フリフリピンクコーデで観戦》バスケ・河村勇輝の「アイドル彼女」に迫る“海外生活”Xデー
NEWSポストセブン
男装の女性、山田よねを演じる女優・土居志央梨(本人のインスタグラムより)
朝ドラ『虎に翼』で“男装のよね”を演じる土居志央梨 恩師・高橋伴明監督が語る、いい作品にするための「潔い覚悟」
週刊ポスト
『君の名は。』のプロデューサーだった伊藤耕一郎被告(SNSより)
《20人以上の少女が被害》不同意性交容疑の『君の名は。』プロデューサーが繰り返した買春の卑劣手口 「タワマン&スポーツカー」のド派手ライフ
NEWSポストセブン
ポジティブキャラだが涙もろい一面も
【独立から4年】手越祐也が語る涙の理由「一度離れた人も絶対にわかってくれる」「芸能界を変えていくことはずっと抱いてきた目標です」
女性セブン
生島ヒロシの次男・翔(写真左)が高橋一生にそっくりと話題に
《生島ヒロシは「“二生”だね」》次男・生島翔が高橋一生にそっくりと話題に 相撲観戦で間違われたことも、本人は直撃に「御結婚おめでとうございます!」 
NEWSポストセブン
木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
大谷のサプライズに驚く少年(ドジャース公式Xより)
《元同僚の賭博疑惑も影響なし?》大谷翔平、真美子夫人との“始球式秘話”で好感度爆上がり “夫婦共演”待望論高まる
NEWSポストセブン
綾瀬はるかが結婚に言及
綾瀬はるか 名著『愛するということ』を読み直し、「結婚って何なんでしょうね…」と呟く 思わぬ言葉に周囲ざわつく
女性セブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン