加えて、今田さんは後編からの途中参加。そこにスッと入るのは熟練俳優でも難しいのですが、今田さんは自らの個性よりも、物語の雰囲気に合わせたシリアスな役作りで勝負しています。コント名手でもあった今田さんとしては、その延長線上を思わせる軽さを残した役作りのほうがスムーズなはずですが、あえて難しい道を選んでいるのではないでしょうか。
ネットでは“棒演技”なんて言う人もいますが、そう見えるのはストイックな人物像を淡々と演じているから。また、ふだん関西弁の人が丁寧語を使うと、一本調子に聞こえがちなので、多少損をしていると思います。
確かに、福澤克雄監督ならではの早口と長ゼリフに苦しんでいるときもありますが、徐々にテンポをつかんできている気がします。もともと今田さんは『オールスター感謝祭』(TBS系)などの生放送にめっぽう強い「空気を読む天才」だけに、回を追うごとに俳優としての勘を取り戻し、クライマックスでは物語にバシッとハマるでしょう。
さらにもう1つ、今田さんの役割は“顔面”のアクセント。『下町ロケット』は正義も悪も、「濃いキャラが濃い演技を連発し、それを顔面の超アップで映す」というカメラワークが目立ちます。そんな息苦しいような緊迫感が漂う中、石倉三郎さんとともに“仏像顔”の今田さんは格好のアクセントに。本人たちは目を充血させながら熱演していますが、それを見る視聴者にはほどよい脱力感を与えているのです。
この先の見どころは、汚い手段を使い続ける貴船教授(世良公則)を懲らしめるシーンで、今田さんがどんな演技を見せるのか。また、実は1994年のドラマ初出演作『彼と彼女の事情』(テレビ朝日系)で、今田さんは阿部寛さんと共演していました。そんな縁のある2人が21年の時を経て、喜び合うシーンを見せてくれるのか。どちらも楽しみです。
【木村隆志】
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』(TAC出版)など。