しなるように宙をかく腕は、翼にしか見えない──。マリインスキー・バレエ団(旧キーロフ・バレエ団)の“プリンシパル”に20年君臨するバレエダンサー、ロパートキナ。世界一と称される彼女の“白鳥”が、ドキュメンタリー映画『ロパートキナ 孤高の白鳥』(1月30日より、東京・渋谷Bunkamuraル・シネマほか)として全国公開される。求道者のようといわれる彼女が求めるものとは一体…。
なりやまないカーテンコール。生きる伝説といわれるバレエダンサー、ロパートキナが地鳴りのような喝采を浴びている。3年に1度のバレエの祭典『世界バレエフェスティバル』(2015年夏)でも、世界中のトップダンサーが集結する中、彼女は最多のカーテンコール回数で、その圧倒的な実力と人気を見せつけた。
「とにかく本当に素晴らしい白鳥で…日頃の嫌なことが全部忘れられました」「3年前も涙が止まらなかったけど、今年はさらに号泣。一緒に“死ぬ”感覚。バレエを初めて見た友人も泣いていました」(会場の女性客)
彼女たちが涙したのは、絶品といわれる、たった4分ほどの『瀕死の白鳥』。命の灯が消えるまでの弱々しく羽ばたく姿は、一瞬たりとも目が離せない。人体を超えた腕の動き、関節は一体どうなっているのか…。本人に聞いた。
「舞台に出る前に骨を外しています(笑い)。というのは冗談で、絵を描くのがすごく好きなので、自分の姿を絵に描き、手の動きや形を柔らかく描いて、ゆるやかに、たおやかに動くのを頭の中にイメージします。そしてその絵になぞらえ、柔らかく見せるために自分の姿を鏡に映してとにかく繰り返します。単に体を動かすのではなく、エモーショナルな内面から体を動かしていきます。自分の中の体の声を聴きながら…」
世界一の白鳥は、年を重ねるごとに進化し続けてきた。
「何を踊っても、必ずその時にもうちょっといい踊りができたのではないかと不満が残る。完璧がない以上、完璧を目指すために、同じことを何度でも繰り返して、自分の欠点や課題を見つけて克服する。その繰り返しです」
現在42才。老いることは恐ろしくないと言い切った。
「それぞれの年齢に合った、神様からの素敵なプレゼントがあると思うのです。これから若い時と同じような動きができなくなるかもしれないけれど、自分の経験を伝え、貢献できることはたくさんあります。だから自分を若くしたいとは思いません。今の人生が終わっても、次の人生が待っていますから」
※女性セブン2016年2月11日号