大関・琴奨菊が2016年初場所で初優勝。メディアは「10年ぶりの日本出身力士の優勝」と絶賛、「次は若乃花以来18年ぶりの日本人横綱誕生か」とお祭り騒ぎをした。確かに次は、琴奨菊にとって綱取りがかかった大事な場所である。しかし現実は甘くなさそうだ。
初場所千秋楽、NHKで大相撲中継の解説をしていた元横綱・北の富士氏は、
「失礼だけどこれまでまったく優勝候補に挙げられなかった。(来場所の綱取りは)これまでの成績も加味されると思うが、全勝か14勝での連覇なら、(横綱に推挙する)声も出るだろう」
と、厳しい昇進条件を口にし、伊勢ヶ濱審判部長(元横綱・旭富士)も場所後、
「これまで安定した成績がないが、(来場所も)レベルの高い優勝なら、そういう声も自然に出てくる」
と、通常の「優勝か優勝に準じる成績」では昇進させないことを示唆。初場所で3横綱をすべて退けた大関に対する評価としては異例の厳しい見方を示した。
九重親方(元横綱・千代の富士)に至っては酷評。
「豊ノ島のいなしにあっさり負けてしまうなど、危なっかしい相撲。綱取りを目指すには、がぶり寄りだけでは技が少なすぎる」
来場所での横綱昇進の可能性に関しては「全勝優勝する力がアイツのどこにある?」と斬って捨てた。
無理もない。琴奨菊は大関に昇って以降、26場所で218勝。1場所当たりに換算すると8.38勝で、いわゆる「クンロク(9勝6敗)大関」より悪い。カド番が5回もあったのもむべなるかな、2桁勝利は8場所のみだからだ。
琴奨菊は師匠の現役時代にそっくりだといわれる。
大関在位32場所で、典型的なクンロク大関と呼ばれた先代佐渡ケ嶽親方・元琴櫻は、1972年九州場所と翌年の初場所に連続優勝、第53代横綱に昇進した。32歳2か月の遅咲きで、横綱にはなったが在位8場所で引退(2桁勝利はそのうち4場所だけ)。仮に琴奨菊が連覇して横綱になれば、32歳1か月での昇進となる。
琴櫻は右のおっつけと左のど輪が得意技、琴奨菊は右を抱え込み左を差してのがぶり寄りが身上と、多少の違いはあるが、一気の出足勝負の単純な攻めはそっくり。身の丈に合わぬ昇進が悲劇を招く道も似ていないことを願うばかりだ。