国際情報

台湾新総統・蔡英文の「敗北が許されぬ戦い」が始まった

蔡英文新総統には茨の道が待ち受ける Reuters/AFLO

 2016年1月16日の歴史的な政権交代を、ノンフィクション作家・門田隆将氏は現地・台湾でつぶさに取材した。蔡英文氏による新たな民進党政権は、中国による「台湾併呑」を阻止するための土俵際の政権となる。門田氏が綴る。

 * * *
“世界一の親日国”台湾が、新たな一歩を踏み出した。それは、自らの生存を賭けた、嵐が待つ“大海”への船出でもある。

 2016年1月16日夜、私は、歴史的な選挙が終わったばかりの台北市北平東路の民進党本部前の群衆の中にいた。

「おめでとう! 有難う!」
「頑張って!」 

 それは歓声というより絶叫といった方が正確だろう。私のまわりには喉を枯らした台湾人たちが、当選した民進党の蔡英文女史(59)に、必死で声援を送っていた。国民党・朱立倫候補に300万票以上の大差をつけ、蔡女史が「689万票」を獲得するという予想を遥かに超えた圧勝は、世界を驚かせた。さらに立法院選挙では、民進党が40議席から68議席に大躍進し、過半数を11議席も上まわる安定多数を獲得したのである。

 それは、わずか2か月前にシンガポールでおこなわれた台湾の馬英九総統と中国の習近平国家主席との「中台トップ会談」で合意した“ひとつの中国”への猛烈な反対の意思であることは明らかだった。

 民進党の歴史に残る圧勝には、「台湾はこれからも台湾であり続ける」という、台湾人の強烈な決意が表われていたと言っていいだろう。

 台湾に関する著作がいくつかある私は、総統選のたびに取材のため訪台する。投票日当日、投票を終えたばかりの有権者に、出口調査も兼ねて、率直な意見を聞くことにしているのだ。今回もそうだった。

 だが、私は前回(2012年)とのあまりの違いに、これほどの「変化」が生まれた理由を考えざるを得なかった。

 前回の総統選は、現職の国民党・馬英九氏と民進党の蔡英文女史との事実上の一騎打ちだった。その時、投票を終えて出てきた多くの有権者の口から出てきたのは、「経済」と「安定」、そして蔡英文候補に対する「不安」だった。

 台湾経済は次第に中国への傾斜を強め、馬政権一期目に、中国に進出した台湾企業で働く台湾人ビジネスマンは、すでに100万人を突破していた。仮に「台湾の主権確立」を目指す民進党が政権を取れば、急速に進む中国との経済関係が一挙に冷え込む恐れがあった。台湾の株式暴落を懸念し、有権者は、「経済面を考えて、やはり馬さんに投票しました」と答えてくれたものだ。

 もともと台北は外省人(大戦後、蒋介石と共に大陸から台湾に渡ってきた人たち)が多く住む国民党の牙城だ。それを差し引いても、「経済優先」の投票行動は、国民党の力がいかに盤石かを物語っていた。しかし、今回はまるで違っていた。逆に、

「台湾人は台湾人です」
「このままでは、台湾は中国に呑み込まれてしまいます」

 そんな不安を口にする有権者が多かった。それはなぜだろうか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段通りの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
《名誉毀損で異例逮捕》NHK党・立花孝志容疑者は「NHKをぶっ壊す」で政界進出後、なぜ“デマゴーグ”となったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
昨年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん
「今この瞬間を感じる」──PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン