ライフ

【著者に訊け】4人の歌姫に迫る『1998年の宇多田ヒカル』

日本で最もCDが売れた日は2001年3月28日(宇多田ヒカル)

【著者に訊け】宇野維正氏『1998年の宇多田ヒカル』/新潮新書/740円+税

 話題の新書『1998年の宇多田ヒカル』を読んで、目下ネットで「凄すぎる!」と評判だという『宇多田ヒカルのうた』所収の1曲、浜崎あゆみのカバー&解釈による『Movin’on without you』を聴いてみた。確かに凄い。彼女の声はこの時、この人でなければ表現しえない生き様や関係すら感じさせ、思わず涙がこぼれるほど心が震えた。

 実は宇多田と浜崎、椎名林檎もaikoも、デビューは1998年。著者・宇野維正氏はこの、〈日本の音楽業界史上最高のCD売り上げを記録した〉〈特別な年〉を補助線に、彼女たちが18年後の今なお君臨する日本の音楽シーンに論考を試みる。1996年にロッキング・オンに入社以来、音楽や映画批評の世界で活躍する宇野氏が、なぜ今、Jポップなのか?

「『はっぴいえんど史観』という言葉もあるのですが、はっぴいえんどこそが日本のロック、そして現代的なポップスの原点だとよく言われている。それに続いて、最近はYMO史観や〈渋谷系〉史観のような言説まで出てきた。

 でも、それらは都市に住むインテリ層の音楽ファンの文脈に過ぎず、一方で、ビーイング系やビジュアル系や小室哲哉プロデュース作品など、地方のヤンキー的な文脈の中でその何倍も売れてきた音楽がたくさんあったわけです。

 1990年代末、宇多田さんと椎名さんとaikoさんの3人は、そんな都市と地方、インテリとヤンキーの境界を軽く飛び越えていった。その歴史的意義は、1970年代の松任谷由実、中島みゆき、竹内まりやの系譜に直接繋げるのではなく、そこに松田聖子、中森明菜、小泉今日子といった1980年代アイドルを挟んで語るべきだと思ったんです。

 現在のヒットチャートは、AKB系とEXILE系とジャニーズにほぼ独占されています。1998年以降、この3人を駆逐する才能が現われず、日本の音楽シーンは更新されていない。そのことへの失望が、この本を書かせたと言ってもいいかもしれません」

 その1998年、日本では4億5717万枚のCDが売れ、日本人は1人当たり世界一CDを買っていた国民だった。その背景にはレコード会社の大半が音響メーカー傘下にある世界的に稀な〈ハードとソフトの供給元が一体となった環境〉と、〈CDは半永久的に劣化しない〉という定説があった。

 旧譜の再CD化で〈「現在の音楽」と「過去の音楽」が等価〉となり、SMAPが音楽シーンの最前線にいるシンガーソングライターを起用していったように「メイン←→サブ」の相互交流も進む中、面白いのは〈アーティスト〉という切り口だ。

 松田聖子や〈花の82年組〉の登場で隆盛を極めたアイドル界も、1985年にスタートした『夕やけニャンニャン』や翌年の岡田有希子の自殺を節目に〈脱アイドル化〉が図られていく。実は日本でアーティストという呼称が使われ始めたのは、〈「アイドル」というレッテルから意識的/無意識的に抜け出そうとする「女性歌手」の周辺であった〉という。

「結局、男も女も魅力的な容姿と声は不可欠な要素で、『俺は椎名林檎の音楽だけが好き』なんていう人は絶対ウソつきだと思う(笑い)。1998年組の女性シンガーが男女両方から広く支持された背景には、その前の小室ブームが同性からの支持に偏りすぎていたことへの反動がありました」

 小室ブーム自体は1993年に始まるが、それ以前の楽曲提供先はまさに〈アイドル名鑑状態〉。その中で同性の取り込みや〈B級アイドルを歌姫として再生させる〉システムを確立し、〈「アイドル」と「アーティスト」の綱引き〉に終止符を打ったのも小室だ。が、やがてそのシステムも制度疲労を来し、元々活況だったCD市場の〈エアポケット〉に、奇跡の1998年組が登場する。

関連記事

トピックス

気持ちの変化が仕事への取り組み方にも影響していた小室圭さん
《小室圭さんの献身》出産した眞子さんのために「日本食を扱うネットスーパー」をフル活用「勤務先は福利厚生が充実」で万全フォロー
NEWSポストセブン
“極秘出産”していた眞子さんと佳子さま
《眞子さんがNYで極秘出産》佳子さまが「姉のセットアップ」「緑のブローチ」着用で示した“姉妹の絆” 出産した姉に思いを馳せて…
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
《日本中のヤクザが横浜に》稲川会・清田総裁の「会葬」に密着 六代目山口組・司忍組長、工藤會トップが参列 内堀会長が警察に伝えた「ひと言」
NEWSポストセブン
5月で就任から1年となる諸沢社長
《日報170件を毎日読んでコメントする》23歳ココイチFC社長が就任1年で起こした会社の変化「採用人数が3倍に」
NEWSポストセブン
石川県をご訪問された愛子さま(2025年、石川県金沢市。撮影/JMPA)
「女性皇族の夫と子の身分も皇族にすべき」読売新聞が異例の提言 7月の参院選に備え、一部の政治家と連携した“観測気球”との見方も
女性セブン
日本体操協会・新体操部門の強化本部長、村田由香里氏(時事通信フォト)
《新体操フェアリージャパン「ボイコット事件」》パワハラ問われた村田由香里・強化本部長の発言が「二転三転」した経過詳細 体操協会も調査についての説明の表現を変更
NEWSポストセブン
岐阜県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年5月20日、撮影/JMPA)
《ご姉妹の“絆”》佳子さまがお召しになった「姉・眞子さんのセットアップ」、シックかつガーリーな装い
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《極秘出産が判明》小室眞子さんが夫・圭さんと“イタリア製チャイルドシート付ベビーカー”で思い描く「家族3人の新しい暮らし」
NEWSポストセブン
ホームランを放ち、観客席の一角に笑みを見せた大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平“母の顔にボカシ”騒動 第一子誕生で新たな局面…「真美子さんの教育方針を尊重して“口出し”はしない」絶妙な嫁姑関係
女性セブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《木漏れ日の親子スリーショット》小室眞子さん出産で圭さんが見せた“パパモード”と、“大容量マザーズバッグ”「夫婦で代わりばんこにベビーカーを押していた」
NEWSポストセブン
六代目体制は20年を迎え、七代目への関心も高まる。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
《司忍組長の「山口組200年構想」》竹内新若頭による「急速な組織の若返り」と神戸山口組では「自宅差し押さえ」の“踏み絵”【終結宣言の余波】
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
「よだれを垂らして普通の状態ではなかった」レーサム創業者“薬物漬け性パーティー”が露呈した「緊迫の瞬間」〈田中剛容疑者、奥本美穂容疑者、小西木菜容疑者が逮捕〉
NEWSポストセブン