そしてこの話には続きがあった。家に帰ってきた勇貴くんは、何も言わず、いつものように母・文子さん(46才)に空のお弁当を渡した。文子さんは、手紙について何も言ってこない息子にちょっとがっかり。18才の息子なんて、こんなものよね、と自分に言い聞かせた。でも、その翌日、息子からの“無器用な返信”があったことに気づく。
「お弁当を包んでいた風呂敷に、私が書いた手紙が入っているのを見て、なんで自分で持っていないのよ、いらないってこと? とショックを受けたんです。でも、手紙をふと裏返してみたら…“お母さんへ”って書いてあって…読んだらもう、バーッと涙が止まらなくて…読んでくれていたんだなと思って。台所でワーッと泣きました」(文子さん)
手紙には「3年間弁当ありがとう」に始まり、「今日で高校最後の弁当だけど、またいつか作ってください。本当に3年間ありがとう。」で終わる。文子さんはお弁当を通じて3年間、勇貴くんの体調の変化を感じたり、おかずの好みについて話すなど楽しい時間が過ごせたと話す。
いつもは、肉のおかずを1種類しか入れないのに、この日のお弁当には、唐揚げとハンバーグ、2種類を入れた。作った本人よりも、勇貴くんのほうが、そのメニューをスラスラ口にしたところを見ると、思い出深いお弁当だったのだろう。
「豪華でおいしかった。朝は7時前のバスに乗って学校に行くので、母はかなり早起きしてお弁当を作ってくれた。たまに寝坊したりするとパンを買うけど、やっぱりお弁当のほうがおいしいから、“パンかぁ”って感じでした。本当に感謝してるんだけど、面と向かってなかなか言えないから、手紙でちゃんと伝えられてよかったです」(勇貴くん)
いつかお母さんにご飯を作ってあげたい――勇貴くんはそう思っている。メニューはバイト先で覚えた得意のチキン南蛮だ。
「手紙は大切な宝物なので、これからもずっと大切に持っておきます」
文子さんは、小さなメモ用紙をそっと握りしめた。
※女性セブン2016年3月31・4月7日号