4月4日にスタートしたNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』が早くも話題を呼んでいるが、高畑充希(24)が演じるヒロイン・小橋常子のモデルとなったのは、天才編集長・花森安治とともに婦人誌『暮しの手帖』を創刊した大橋鎭子(しずこ)だ。
「衣・食・住」の生活全般をテーマとして1948年に創刊された『暮しの手帖』には、さまざまなこだわりがあった。掲載する写真のモデルは鎭子自らが務めることも多かった。料理はもちろん、編み物など、雑誌に出てくるほとんどの手の写真は鎭子の手だった。元『暮しの手帖』の編集部員で『花森安治の編集室「暮しの手帖」ですごした日々』の著書を持つ唐澤平吉氏はこう言う。
「鎭子さんは夏でも革手袋をしていた。手を怪我したり、日焼けして撮影に支障が出たら大変だと常々言っていました。また撮影を終え、着替えたときにスカートを穿き忘れてシミーズ姿で出て行ってしまったこともありました。“あら、穿き忘れちゃった”って戻ってきて。それぐらい豪快な人でした」
『暮しの手帖』では、とにかく掲載するものはすべて自分たちで試した。前出の唐澤氏がこう振り返る。
「会社には洗濯室、台所、裁縫室、音楽室、化学室がありました。たとえば料理のレシピを有名なシェフに教えてもらえば、普段料理をしない男性でも理解できるレベルになるまで、何度も作り直しました。毎日が残業でしたね」
同誌は創刊から現在に至るまで広告を一切掲載しないポリシーを貫いている。その背景にあると言われているのが、1954年に始まった人気企画「商品テスト」だ。世に生み出される新商品を同誌が実際に使ってみるという内容だ。
トースターのテストではパンを4万枚以上焼いたり、ベビーカーのテストでは100kmも走行させた。果ては「火事」のテストとして家1軒を燃やすという実験まで行なっている。
「メーカー側は何をテストしているのか、どんなテストをしているのかを知りたがりました。そのため情報が漏れないように、“マスコミの人間とは飲みに行くな”と言われていました」(前出・唐澤氏)
広告を入れないことで、商品テストの中立性を保ったのだった。だが、それ以外にも理由があった。かつて花森はこう明かしている。
「編集者として、表紙から裏表紙まで全部の頁を自分の手の中に握っていたい。広告は土足で踏み込んでくるようなもの。そんなことに耐えられない」
この徹底したこだわりこそが同誌を人気雑誌に押し上げた一因なのだろう。
※週刊ポスト2016年4月15日号