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【著者に訊け】青木俊氏 近未来仮想小説『尖閣ゲーム』

『尖閣ゲーム』を上梓した青木俊氏

【著者に訊け】青木俊氏/『尖閣ゲーム』/幻冬舎/1500円+税

〈沖縄、独立前夜〉──!?

 まさか、とは思うものの、普天間移設問題を巡る昨今の県vs.国の対立を考えれば、俄かに現実味を帯びるから厄介だ。本書でいう沖縄独立前夜とは中国の軍事介入及び、日米との開戦前夜をも意味するのだから!

 テレビ東京勤務を経て、このほど作家に転じた青木俊氏の初小説『尖閣ゲーム』。主人公の「沖縄新聞」記者〈山本秋奈〉は、5年前、東シナ海の島嶼上陸訓練で事故死したとされる警視庁捜査三課勤務の姉〈春奈〉の死の真相を追っていた。なぜ三課の刑事がそんな訓練に参加し、遺体も戻らないのか当局から一切説明はなく、秋奈は姉の恋人で警察庁の窓際官僚〈堀口〉と調査を続けてきた。

 折しも県下では米兵による女子高生強姦殺害事件や、オスプレイ墜落事故を巡って反米デモが頻発。県警や米軍幹部襲撃事件も相次ぐ中、全ての結び目に〈『冊封使録・羅漢』〉なる幻の古文書の存在が浮かび上がる。

 入社後は報道畑を歩み、香港や北京に赴任。退社後、執筆には2年余りをかけた。

「最大の恩人は清水潔さんですね。2000年の『桶川ストーカー殺人事件・遺言』に衝撃を受けて会いに行って以来何かと応援してくれて、実は沖縄取材にも男2人で行った。ただ、中学の頃にフォーサイス『ジャッカルの日』を読んで、『こんなに面白い本があるのか!』と感激した私の場合、小説でなきゃダメだったんです。息もつかせぬ展開に現実の世界情勢を絡めつつ、読者をドキドキ、ハラハラさせるのが、究極の目標です」

「尖閣の真の脅威と秘密を想像力で暴く」と村上龍氏も書くように、尖閣問題の何が問題なのかを、虚実のあわいに炙り出す意欲作だ。

 まずは地勢や歴史的問題。沖縄本島の南西約400km、最も台湾寄りの魚釣島から大正島までを、かつて明領だったと中国側は主張し、根拠に挙げるのが16世紀に来琉した陳侃(ちんかん)以来、計12冊が書かれた『冊封使録』だ。かつて明の皇帝は計500名もの使節団を琉球に送り、その航海録に久米島・大正島間の〈潮目〉が琉球国境とある以上、大正島以西は中国領だと言うのである。

 一方日本側は〈無主地〉だった魚釣島を明治政府が開拓した事実から〈先占権〉を主張。中国側も特に抗議してこなかったが、1970年代に石油やレアメタルの鉱脈が発見されて事態は一変。その価値は1500兆円ともいうから、当然ではある。

「例えば靖国問題にしても、それで戦争するほどお互いバカじゃない。でも尖閣問題は実利が絡む領土の問題なので双方引くに引けず、もし尖閣=琉球と裏付ける確証が出てきたらどうなるかを、妄想してみたんです」

 秋奈は上陸訓練の生還者で元公安部刑事〈南条〉を探し出し、姉が魚釣島でのある極秘任務で命を落とした事実を掴む。南条は詳しいことは〈阿久津天馬〉という男に会い、『羅漢』について訊けと言うが、冊封使録には羅漢という章も人名も、存在しないのだ。

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