ライフ

【著者に訊け】安藤祐介氏 ラグビー小説『不惑のスクラム』

【著者に訊け】安藤祐介氏/『不惑のスクラム』/KADOKAWA/1600円+税

 たとえ過失であっても、人1人の命を奪った人間を、どう受け入れればいいのか。そんな正解のない問いを巡って大いに揺れ、不惑どころではない中高年集団が、安藤祐介著『不惑のスクラム』では老体(?)に鞭打ち、楕円のボールを一心に追うから素敵である。

〈不惑ラグビー〉。若くて30代後半、最高齢は90代ともいう熟年ラグビーの世界は現実にも存在し、不惑目前の安藤氏自身、とあるチームで約2年間、取材兼練習に励んできた。

 都内のグラウンドに練習拠点を置く〈大江戸ヤンチャーズ〉でも、元商社役員〈宇多津〉から花園出場経験者〈金田〉まで、顔ぶれは様々。そしてある時、職も家族も失って死に場所を求める男〈丸川〉が、足元に転がってきたボールをたまたま蹴り返したことから、物語は始まる。

〈老いてなお、やんちゃであれ〉が信条のヤンチャーズ最大の魅力は、立場も利害も関係ない〈掛け値なしの縁〉だ。しかし、丸川の加入や宇多津の病気離脱で足並みが乱れていくなか、彼らは各々の居場所をどう守るのか?

「元々は前作の取材でベンチャー企業の社長さんに話を聞いた時に、ヤンチャーズの溜まり場として本作にも登場するニュー新橋ビルの蕎麦屋に連れて行かれたんです。ただ照れ臭いのか、仕事の話は全然してくれなくて、『それよりラグビーの話は書かないの?』『今度練習来いよ』って誘われたのが2014年の1月。つまりW杯で日本が南アフリカに勝つ2年前です。今でもラグビー素人の私は、人気に便乗しようなんて発想自体、浮かびません(笑い)」

 そもそも「球技は超苦手」という細身の39歳に、いきなりラグビーはキツすぎる。

「結局、練習でも鬼ごっこの味噌っカスみたいな感じで混ぜてもらって(笑い)。試合後の飲み会〈ファンクション〉にも参加しましたが、休日は別の顔があるというのがまず面白いし、来る者は拒まずで懐が深い。体力も経験値も違う面々が、ラグビーが好きというだけで集まっている、シンプルで清々しい空間でした」

 その懐の深さが、「ここにもし過去に罪を犯した人間がいたら?」という着想に繋がったというから驚く。

 丸川は6年前、通勤電車で痴漢を疑われ、犯人扱いする男性客を蹴ってしまう。相手は打ち所が悪く死亡。傷害致死で懲役6年の刑を受けた彼は、妻に離婚を申し入れ、当時2歳だった娘は父親を覚えていない。

 出所後の日雇いで食い繋ぎ、ネットカフェで寝る生活に疲れ、いっそ自殺しようと出掛けたのが江戸川の河川敷。そこでは中年男たちが熱心に練習に励み、不意に蹴り返した丸川のボールは見事な弧を描く。フルバックだった高校時代、県大会準々決勝で外してしまったドロップキックは、皮肉にもこんな時だけ決まるのだ。

「それこそパスを前に投げると反則になることすら知らなかった私ですが、子供の頃、日本の選手がどこかの強豪国に一矢報いた50m級のドロップゴールは偶然テレビで見たことがあった。その美しい放物線が鮮烈で忘れられなかったんです」

関連記事

トピックス

キャンパスライフをスタートされた悠仁さま
《5000字超えの意見書が…》悠仁さまが通う筑波大で警備強化、出入り口封鎖も 一般学生からは「厳しすぎて不便」との声
週刊ポスト
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
エライザちゃんと両親。Facebookには「どうか、みんな、ベイビーを強く抱きしめ、側から離れないでくれ。この悲しみは耐えられない」と綴っている(SNSより)
「この悲しみは耐えられない」生後7か月の赤ちゃんを愛犬・ピットブルが咬殺 議論を呼ぶ“スイッチが入ると相手が死ぬまで離さない”危険性【米国で悲劇、国内の規制は?】
NEWSポストセブン
笑顔に隠されたムキムキ女将の知られざる過去とは…
《老舗かまぼこ屋のムキムキ女将》「銭湯ではタオルで身体を隠しちゃう」一心不乱に突き進む“筋肉道”の苦悩と葛藤、1度だけ号泣した過酷減量
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン