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【書評】企業ガバナンス強化という視点で見た大塚家具内紛劇

【書評】『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』磯山友幸著/日経BP社/1500円+税

【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 大塚家具の経営権を巡る「親子喧嘩」は、テレビのワイドショーを賑わわせ、久しくお茶の間の話材をさらった出来事だった。

 創業者で会長の大塚勝久氏と、その長女で社長の久美子氏とが、メディアの前で遠慮会釈なくやりあう姿は、「ビジネスモデルを巡る意見の食い違い」以上に、「『ニッポンの今』を象徴する出来事」と映ったからだろう。観る者をして、一種のカタルシスを感じさせるほどの“ののしりあい”は、「古い価値観と新しい価値観」のぶつかり合いでもあった。

 父親の勝久氏が、「(久美子氏を)社長に選んだことが私の唯一の失敗」「悪い子どもを作った」と嘆くや、娘の久美子氏は、「個人商店流の経営がしたい勝久会長が抵抗している」だけと切り捨てる。そこに母親の千代子氏が割って入り、「久美子に経営ができるとは思いません。社員をいじめないでください」と訴えたのだから、各人各様、登場人物に感情移入できる愛憎劇として完成する。

 この騒動に外国の投資ファンドまでもが強い関心を寄せたのは、新しい経営環境を求める“時代の文脈”が引き金となっているからだ。「現場で叩き上げた直観力」を誇示し、古くからの人間関係という「情」に訴えた勝久氏に対し、メガバンク出身の久美子氏は、「中期経営計画や、株主還元策、コーポレートガバナンス」など、「理」を説くことで大株主や機関投資家の支持獲得を目指した。

「株主に報いる」ため、久美子氏が、年間の配当金を「四十円から八十円に引き上げる」と発表するや、勝久氏は、それを上回る「三倍の百二十円」を提示。一昔前なら、この提案と「情」を絡めた人間関係によって、勝久氏に軍配が上がっていたであろう。

 コーポレートガバナンスに通暁する著者は、「企業のガバナンス強化と女性活躍」という追い風に加え、「アベノミクスの成長戦略」との関係から、大塚家具の内紛劇を分析。今後、日本の企業経営がどう変わらざるをえないかを、本書で分かりやすく解説してくれる。

※週刊ポスト2016年5月6・13日号

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