芸能

東海テレビ制作深夜ドラマ ユースケの狂気秘めた演技が好評

ドラマ「火の粉」(東海テレビHPより)

 今クールのドラマには、深夜の枠に良作がある。ユースケ・サンタマリア(45才)が主演するドラマ『火の粉』(東海テレビ制作)がそれだ。雫井脩介氏の同名小説が原作。ユースケ演じる殺人事件の元被告が回を追うごとに、不気味さを増している。このドラマに注目しているのは、テレビ解説者の木村隆志氏。木村氏がユースケの「怖い」演技について鋭く分析する。

 * * *
 その印象は、もはやサスペンスというよりもホラー。回を追うごとにハラハラドキドキよりも、「ユースケさんの怖さを楽しむドラマ」という要素が増しています。

『火の粉』のストーリーは、一家殺人事件の容疑者だった武内真伍(ユースケ・サンタマリア)が、無罪判決を下した元裁判長・梶間勲(伊武雅刀)の家族に近づいて心をつかむ一方、周辺で次々に不可解な事件が起きる、というもの。

 しかし今のところ、ユースケさんによる殺人などの直接的な犯罪シーンはありません。つまり、凄惨なシーンは一切なく、普通の言動だけで怖さを感じさせているのです。

 たとえば、手の込んだバームクーヘンやベリージュースを作りながら「おいしくな~れ、おいしくな~れ」とつぶやくシーン。さらに、それを梶間家の孫娘に食べさせるシーンでは、「毒が入っているのでは?」と思わせる不気味さを感じました。

 その他にも、スーツケースを運んでいるだけで、「その中に死体が入っているのでは?」。梶間雪見(優香)の友人で武内に好感を持つ佐々木琴音(木南晴夏)の顔にあざがあっただけで、「殴られたのでは?」。プレゼントを遠慮する家族に「お気に召しませんか?」と言うだけで、「殺されるのでは?」と思わせるなど、視聴者が悪い想像をかき立てる演技を連発しています。

 中盤に入ると、梶間勲に「私が的場さんの家族を殺したことなんか小さな罪だ!」と、ついにカミングアウト。先週の7話では、自らプレゼントしたマッサージチェアに梶間家のメンバーを座らせて、拷問のような“家族教育”をするなど、内に秘めた狂気を表に出すようになりました。

 バラエティー番組で見せる陽気なキャラとは正反対の役だけに驚いた人も多いと思いますが、実は“狂気を秘めた役”はユースケさんの十八番。『絶対零度~特殊犯罪潜入捜査~』(フジテレビ系)では、穏やかな表情の裏で、偽名を使い分ける黒幕。『カレ、夫、男友達』(NHK)では、銀行員として働く裏で、妻に暴力を振るう夫。『探偵の探偵』(フジテレビ系)では、人気探偵としてテレビ出演する裏で、悪事を働く男。映画『ST 赤と白の捜査ファイル』では、殺されたように見せかけた裏で、金儲けをしていた天才ハッカーを演じました。

 俳優業をはじめたばかりのころは、“明るいお人好しの役”が多かったものの、近年は悪役が増えているのです。特に目立つのは、偏った価値観や屈折した愛情を持つ人物の表情。どこか遠くを見ているような目や、薄笑いを浮かべた口元など、表情作りのうまさは、フィクションとノンフィクションの間にある、絶妙な着地点を感じさせます。そのような“現実世界とリンクした怖さ”を演じられるからこそ、狂気を秘めた役のオファーが増えているのでしょう。

 今回の武内真伍役も、フィクションのホラー作を思わせる怖さを与えつつ、「明らかに偏っているけど、もしかしたら私たちも紙一重では?」というノンフィクションも感じさせています。視聴者の誰もが、「好意をむげにされたときのやりきれなさや怒りに思い当たる節がある」からこそ、ユースケさんの演技に怖さを感じるのではないでしょうか。

 初の連ドラ出演となった『踊る大捜査線』から10年目を迎え、9年ぶりの主演となるユースケさんは、「今の自分を100%ぶつけられるドラマ。久々に燃えています」といつになく力の入ったコメントを発信していました。その熱が飛び火したのか、酒井若菜さんがわずか2話程度の出演にも関わらず、前歯を抜いて役作りをするなど、キャスト全員の熱演がホラー要素を高めているのは間違いありません。

 そのようなホラー要素の強いドラマは異例ですが、「東海テレビ制作」と聞くと何となく納得できるのではないでしょうか。東海テレビは3月31日の終了まで、52年に渡って昼ドラを放送した熱烈なファンを持つテレビ局。昼ドラ終了から、わずか2日後の4月2日に『火の粉』をスタートさせて、『牡丹と薔薇』『真珠夫人』などで見せた強烈な遺伝子を受け継がせたのです。

 気軽に見られるコメディや一話完結の刑事モノが多い中、ここまで暗く不穏なムードの作品を徹底できるのは東海テレビならでは。主人公であるユースケさんの役割は、「視聴者に不安や不快感をたっぷり与えること」であり、残り2話での壮絶なクライマックスが期待されます。

「眠気が覚める」「トイレに行くのが怖くなる」「グラスを持つ手が震える」。そんなホラーがこのまま深夜ドラマに定着したら面白いな……と思っていたところ、6月から放送される第2弾は、辻村深月さん原作の『朝が来る』であることが発表されました。こちらはホラーではなく、養子縁組や不妊治療に挑む家族のシリアスなヒューマン作ですが、東海テレビの得意ジャンルであることは同じ。ホラーにしろ、ヒューマンにしろ、土曜深夜に大人が楽しめるドラマ枠が誕生したことを喜んでいる人は多い気がします。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン