ライフ

がんで余命1か月診断の男性 適切な栄養管理で5年生存も

 緩和ケアの第一人者で、著書『「がん」では死なない「がん患者」』(光文社新書)が注目を集めている東口高志氏(藤田保健衛生大学医学部教授)は栄養管理の重要性をこう解説する。

「がん患者はがんで死ぬわけではない。がん患者が亡くなる原因の8割が栄養不足によるものです。その現実を治療に役立てることができれば、がん患者はもっと長生きできるはずです」

 世界でもいち早くがん患者の栄養に注目した米国では、「栄養管理が医療の基本」という考えがあり、1970年代から病院内に医師や看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、検査技師からなる栄養サポートチーム(NST)を置いて、患者の栄養管理に努めてきた。米国の栄養学会が2005年に行なった調査では、大学病院などの大規模医療機関は63%がNSTを導入している。

「米国では、医師も患者さんも栄養を摂ることが医療行為だと分かっていますから、例えば管理栄養士が『この人は1日300キロカロリー不足している』といえば、医師は処方箋を書いて栄養剤を出し、患者さんもそれを飲むことが当たり前になっている。私がこんな話をするのも、日本もそうなってほしいと思っているからなのです」(東口氏)

 こうした状況に加えて、自身の経験からも栄養管理は「治療」だと考えている。その主張は余命1か月といわれたがん患者に対して栄養を与えたことで、5年も生き延びたケースからも分かる。

 咽頭がんの70代後半の男性は、余命1か月と宣告され、東口氏の勤める病院の緩和ケア病棟に転院してきた。その時、男性はガリガリにやせ、まるでミイラのような状態だったという。東口氏は、明らかに栄養不足だった男性に適切な栄養を与え、同時に固くなっていた手足のリハビリなども行なった。すると、男性は1週間を過ぎた頃から急速に回復し始め、3か月後にはゼリー状のものなら口から食べられるようになり、手足も動かせるようになったという。

 退院後、その男性は自宅で5年間、奥さんと一緒に暮らし、亡くなる1週間前に東口氏のもとを訪れ、感謝の意を告げたという。男性はその後、笑顔のまま逝った。

関連キーワード

関連記事

トピックス

インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
PTSDについて大学で講義も行っている渡邊渚さん(本人提供)
渡邊渚さんが憤る“性暴力”問題「加害者は呼吸をするように嘘をつき、都合のいい解釈を繰り広げる」 性暴力と恋愛の区別すらできない加害者や擁護者への失望【独占手記】
週刊ポスト