●その2 鉄仮面・木村佳乃の破壊力
『僕のヤバイ妻』(フジテレビ系)は、テレビ局にとってはうれしすぎる展開に。なぜなら初回視聴率は8.3%でスタートし、最後は数字を二桁台に乗せ、関東地区10.4%、関西地区は14.1%と、「過去最高値」に到達したのだから。
連続ドラマにとってこの上ない展開。クオリティが高かった証し。何よりもまず、脚本がよく練れていた。夫(伊藤英明)の不倫に対して復讐を画策する妻(木村佳乃)。その本筋に、殺人と金をめぐる謀りごとが複雑に絡みあい、物語は二転三転。謎が謎を呼ぶスピード感満ちた構成に、目が離せなかった。
めくるめく展開の中にあってただ一人、顔色を変えない不動の人。冷たく微笑み続ける妻を演じた、木村佳乃。「怖すぎる」「笑う姿がヤバイ」「ぞぞっとする」「ビビる」と、木村の“怪演”ぶりが回を追うごとに話題を集めた。
そのヤバさが視聴者を釘付けにした。私も釘付けになった。木村佳乃は振り返る。
「満足したのは倒れながら血を吐くシーン。これは、ほかの女優さんに負けない自信があります! 勉強してますから、噴水のように吐きました!」(オリコン 6月22日)
一人ほくそ笑みながら、ヤバイ妻を演じ切っていた。技術的には巧いタイプではないかもしれない。でも時に、凄い破壊力を見せる役者だということを浮き彫りにした、記念作だ。
●その3 まるで青春文学、柳楽優弥が愛おしすぎる
クドカン脚本で、話題を振りまいた『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)。「ゆとり第一世代」のアラサー男女が仕事、恋、友情に悩む姿が、実にイキイキとリアルに描き出された。
仕事に関する描写が繊細で丁寧で、どのキャラクターも一人一人に味わいがあった。平凡に生きることの中にある甘さと辛さを、視聴者も一緒になって味わうことができた。中でも、道上まりぶ役を演じた柳楽優弥の存在感は傑出していた。
都会の汚濁の中にどっぷりまみれて生きながら、無垢で純粋な魂をしっかりと抱きしめている人。このドラマはまさに青春純文学で、それを最も象徴していたのが柳楽だったのでは? 「演じる」ことを超えて、柳楽の存在そのものに愛おしさを感じてしまった。別の作品の中でまた別の姿を見てみたい、と思わせてくれた。
──と、たくさんの才能に出会うことができる、テレビドラマというコンテンツ。夏の新作品にはどんな予想外のキラ星が登場するだろう? 今から楽しみだ。