ライフ

【書評】「アメリカに罪はない」 被爆者が語る「物語」

【書評】『オバマ広島演説』/『CNN English Express』編集部・著/朝日出版社/700円+税

【評者】大塚英志(まんが原作者)

 広島におけるオバマのスピーチに異を唱えることは政権与党のなさることに意義を唱えてはいけないこの国では当然NGであるだけでなく、国際社会は「外交を通じて紛争を防ぎ、すでに起きてしまった紛争を終わらせる」ように「戦争そのものに対する考え方を変えなくてはいけない」という、まるで憲法前文のごとき言い方さえするものだから、左派も隣に安倍がいても突っ込めなくなる。

 しかし、おかしいだろ、その構図。プラハの時には、アルカイダに核が渡らないように国際管理に向け4年をめどに動き出す、という核廃絶をテロとの戦いにすり替えてのいかにもアメリカなビジョンがそれでもあったが、今回の提言は「人類に共通する人間性を描く物語」を語りつたえることだった。

 5分で原爆資料館の見学を終えたオバマにしてみれば当然だが、それは、この国の被爆者や戦後文学が語り継いで来た物語ではない。あくまで「原爆を投下した爆撃機のパイロットを許した女性」「(被爆で)亡くなった米国人たちの家族を捜し出した男性」の「物語」、つまりアメリカに罪はないと被爆者が語る「物語」にすぎない。

 なるほど、安倍政権になって以降、沖縄の声や、慰安婦の声に、加害者としての本土や日本を自ら免罪することに熱心だったこの国にそれは相応しい演説だった。謝罪なしで許されるなんて、絶対にアメリカ社会では有り得ないのに、それをアジアでは平気で要求できるのだから、舐められた話だ。

「文藝春秋」7月号では、オバマのスピーチにあった、アメリカ人捕虜被爆者の調査をやってきた人の手記を載せていた。この市井の歴史家の仕事に少しも異論を挟むわけでないが、編集部がつけた題名が「オバマは広島で私を抱きしめた」であり、普通、許すほうが許されるほうを抱擁するのであって、逆だろう、とは思う。

 どうやら、「原爆を落とされた国が落とした国に許してもらう」というのが「被爆者の物語」のかわりに私たちが新たに語り続けねばならない物語だということのようだ。

※週刊ポスト2016年7月22・29日号

関連記事

トピックス

大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン