「あんたのところの米に石が入っていたおかげで、歯が折れて歯医者に通っているんだ。どうしてくれる」と、お客が主人に怒鳴っていたのだ。
今では、市販されているお米にも、炊いたご飯の中にも、石が混じっているなど考えられないが、昭和30年代までは決して珍しいことではなかった。
「以前はどんな機械にかけても、米粒と同じ大きさの石を取り除くことはできなかった。だからとぐ時も注意しなければならなかったし、石を噛まないように注意して食べていたのです」
この日から雜賀さんは、早速、石を除去する撰穀機の開発に取りかかる。米粒よりも大きかったり、小さかったりする石を除去するのは簡単だ。しかし、米粒と同じくらいの大きさで、色も白っぽい石になると、機械も人の目も見逃してしまう。
「試行錯誤の末、箱に詰めて売られる削り節をヒントにして、1年かけて石抜撰穀機を開発し、無石米を世に送り出すことができました」
1961年秋のことだった。そういえば、町角や村里に置かれているコイン精米機を見ると、石がないことを今もわざわざ書いてある。
※女性セブン2016年9月15日号