本書ではそんな男惚れの美学が底流をなし、木屋とプロの夢半ばに戦死した兄、さらに田宮を繋ぐ、古びた〈ボール〉が、戦争や時代に翻弄された人々の切なる願いを映して、感動を誘う。
「男には幾つになっても永遠の野球少年みたいなところがあると思うんです。今作は戦後13年目の博多で、ワケありな男たちが思いのキャッチボールに興じる、そんな話です」
たった年前の時代小説には、確かに我々が失ってしまった多くのものがあり、人々のキラキラした表情は目に眩しいほど。元野球少年は、これからも人から人へ、思いのボールを繋ぐ小説を書き続けたいと誓ってくれた。
【プロフィール】ひらおか・ようめい/1977年横浜生まれ。慶應義塾大学文学部卒。慶應志木高校硬式野球部では内野手。角川春樹事務所や吉本興業出版部等を経て2013年「松田さんの181日」で第93回オール讀物新人賞を受賞。本書は初長編。「博多には特に縁はないんですが、妻が大分出身で、九大出身の義父は大変な語学通。『君の考える博多弁は大分弁が混じっている。僕が後で添削するから思う存分書きなさい』と言ってくれた頼もしい人です」。174cm、68kg、B型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/三島正
※週刊ポスト2016年9月16・23日号