在宅看取りを実現するには、医療・看護・介護の専門家が集い、手を取り合って力を合わせる必要があるのだ。
「横須賀市では、さまざまな職種のかたが集まる研修会を開いたり、ケアマネジャーが医療を学ぶ研修などを開催し、“連携力”を培いました」(川名さん)
前出の田中さんが懸念したように、専門家のなかでも敷居が高くなりがちな医師と多業種の連携は難しい。実際、他の地域では医師会と多業種が協力できず、在宅医療が進まないケースが多発している。
しかし、横須賀市では医師会の副会長でもある千場さんが率先して医師会に働きかけた。
「たしかに医師は忙しいうえ、誇りが高くて威厳がある職業と考える人が多く、取っつきにくくて敷居が高い。その敷居を下げるため、“患者さんのために必要だから相談しましょう”という切り口で1998年ごろから勉強会やカンファレンスを開催して多職種との交流を図りました。患者さんを中心にすれば医師も結束しやすいですから」(千場さん)
その連携の表れが、冒頭で描いた里中さんのカンファレンスに他ならない。他にも患者が退院した後、自宅での療養生活に円滑に移行できるよう、横須賀市はさまざまな工夫を重ねた。
退院前には、患者の情報を在宅療養スタッフが共有するための「退院前カンファレンスシート」(退院前カンファレンスを円滑に行うための手順書)を活用する。A4の紙1枚のシートで、現在までの経過と治療のほか、食事介助の方法や入浴、排泄、薬などについて入院中の細かなケアから、退院後の本人・家族の希望といった「聞き取り項目」まで列挙される。それぞれの項目に所要時間の目安が書かれていて、すべてを20分で終えることが目安となる。
このシートを用いて、里中さんも退院6日前に退院前カンファレンスが開かれていた。担当したケアマネジャーが言う。
「訪問介護、福祉用具、医療と組んでカンファレンスをしました。私は退院後に必要な介護について里中さんの要望を聞き、在宅医療の始まる日に合わせて介護用ベッドのレンタルを手配しました」
これらの事前準備により、在宅医療への移行がスムーズになると千場さんが言う。
「病院から在宅医療に移行しやすいようお膳立てをするのがカンファレンスの大きな目的です。在宅医療の準備ができていないのに自宅に帰っても患者さんがつらいだけ。このカンファレンスは、患者さんに“退院させられた”“病院に切られた”という気持ちではなく、“病院とつながっている”という安心感を与えます。その後の在宅医療にとって非常に大切です」
入院中と退院後が切れ目なくつながり、患者が不安を抱くことなく在宅医療を始められる。当事者たちがカンファレンスで顔を合わせているため、次に会ったとき「この間はどうも」「次はどうしようか」と会話が流れることが、「切れ目ない医療」の証となる。
全国の自治体にとって大きなヒントとなる横須賀市には、24時間体制の在宅療養支援診療所が42か所ある。来年度までに50か所にするのが次なる目標で、数だけでなくその質にも配慮した多職種連携のさらなる推進が模索されている。
※女性セブン2016年9月29日・10月6日号