理由は、2か所でピンハネされていることにある。まず、銀歯を発注した歯科医は、約800円で中規模の歯科技工所に発注していた。神戸の歯科技工士はその下請けで、半額を営業経費として抜かれて400円になっていたのである。
日本の歯科技工所は個人経営が大半を占めているが、近年は一定規模の歯科技工所が、全国に営業活動をするようになった。その結果、ダンピング競争で取った仕事を、個人の技工所に安い金額で下請けに出して、手数料を稼ぐビジネスモデルができたのだ。
さらに、日本の歯科の診療報酬が欧米と比べて極端に低いという事情も、状況悪化を加速させている。
「診療報酬が非常に低く、歯科医も経営的に厳しい。経費として歯科技工士に払う技術料を安く抑えたいから、ダンピングを要求する。技工所も価格競争でどんどん下げるという悪循環です。大臣告示の『7対3』は、現場に全く反映されていないので、国が強く指導する等の対策を要望する活動をしています」(雨松氏)
この『7対3』問題について、所管の厚生労働省・保険局医療課に取材すると、意外な答えが返ってきた。
「歯科技工士の技術料については、個別の歯科医との自由契約という認識です。大臣告示については、今後も指導や強制する考えはありません」
国として技術料の割合を示しておきながら自由契約であると開き直るのは、あまりに無責任ではないか。さらに、日本歯科医師会に対しても見解を求めたところ、事務局は、「明確には答えにくい質問である」と回答するのみだった。
●文/岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2016年9月30日号