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末期がんの42才女性 大切な人への手紙で人生の価値を確信

 患者増で医者・病院に頼れない時代が迫っている。自宅で病と闘い続ける親や夫、友人たちに、どう接したらいいのだろうか。また、自分自身ががん患者で有効な治療法がなかったとしたら、その事実とどう向き合うか…。発行25万部を超える『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』(アスコム刊)の著者で、これまでに2800人以上の患者を看取ってきためぐみ在宅クリニック院長の小澤竹俊さんが説く、「苦しみの取り除き方」とは――。

 * * *
“支え”が、人それぞれ異なることは言うまでもありません。私が答える言葉を失い、思わず涙をこらえた、ある患者さんのケースを紹介します。

 その患者さんは42才の女性で、夫と中学生と小学生の2人の子供がいました。すでにがんの遠隔転移が数か所に及び、治療の施しようがない状態でした。衰弱が進んだ彼女は悩んだ末、病院ではなく自宅での療養を決断しました。住み慣れた家は安らぐ。また、残された時間を少しでも子供たちと一緒にいたい――そうした理由からです。

 やがて体に腹水が溜まり、買い物に行けなくなり、介護保険を使い、ヘルパーの助けを得て、私たち医療スタッフが往診し、がんによる疼痛(とうつう)を取り除きました。

 ちなみに今日では疼痛緩和の薬剤が進歩し、がんによる痛みからは、ほぼ解放されるまでになっています。

 彼女は肉体的な苦痛から解放されましたが、こう訴えるのです。

「先生、なんで私はがんになったのでしょうか。たばこも吸わない、お酒も飲まない、健康には気を使ってきたつもりだし、がんの家系でもない。そんな私がなぜ、がんにならなければいけないの。子供を残して死にたくない。趣味のお菓子を友達ともっと作りたい。地域の図書館でボランティアにも、もっと携わっていたい。それなのに先生、なぜ私だけこんな目に遭わなくては、いけないんですか」

 私はそんな問いに、答えることができません。患者さんの心情は痛いほど伝わってきました。精神的な苦しみから発する言葉に、医学はなすすべがありません。私は涙をこらえて、彼女の話を受け取るように聞き入るしか、取るべき手段がありませんでした。

 しかし、そんな中でも患者さんの中に必ずある“支え”を確認し、穏やかな心境を獲得できるよう援助することを諦めるわけにはいきません。

 私たちは患者さんに、ディグニティセラピーを勧めました。

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