国際情報

北朝鮮帰国事業 日本メディアが美談として報じ大衆的支持へ

帰国者たちの悲劇は続く KCNA/新華社/AFLO

 在日コリアンが祖国で受ける差別は、韓国より北朝鮮のほうが苛烈だ。時に死と隣り合わせになるからだ。「デイリーNKジャパン」編集長の高英起氏が、なぜ北朝鮮への帰国事業が大衆的な支持を得たのかを解説する。

 * * *
 今から57年前の1959年12月14日、旧ソ連の軍艦を改造した貨客船、クリリオン号とトボリスク号の二隻に乗って、夢と希望に満ちた在日朝鮮人とその家族を含む975人が、北朝鮮へ出発した。在日朝鮮人帰国事業の第1陣である。

 マンセー(万歳)という歓喜の声と赤旗で見送られた彼らは、「地上の楽園」と喧伝されていた北朝鮮で新たな未来を切り拓くはずだった。しかし、それは大ウソだった。約9万人の帰国者は、日本で貧困と差別に苛まれていた時以上の過酷な人生を送ることになる。

 1990年代中盤あたりから様々な場で、北朝鮮へ帰国したが脱北した者たちが帰国者の悲惨な実情を証言するようになり、現在では帰国事業の実態が広く知られている。帰国運動の背景に北朝鮮と日本の政治的な思惑もあったことも歴史的事実として検証されている。しかし、何故当時、帰国運動が日本人をも巻き込んであれほど大衆的な支持を得たのか。

 その原因のひとつは、帰国事業を伝えた報道にあった。北朝鮮のプロパガンダに拍車をかけたのが、日本のメディアだ。朝日、読売、毎日、そして現在は北朝鮮に批判的な産経新聞を含む主要全紙が、帰国事業を「美談」として報じた。

 産経新聞は、第1次帰還船出発直後に、北朝鮮を現地取材。1959年12月27日付の紙面で「躍進する北朝鮮」「焼土から立ち上がる」と、北朝鮮のプロパガンダ紙さながらの論調を展開している。時折、保守派が、北朝鮮体制と帰国運動を煽ったとして朝日新聞をはじめとする左派系メディアなどを批判のやり玉にあげるが、当時の報道を検証すれば、それがいかに手前勝手で、見当違いの批判なのかがわかる。

 本国から朝鮮総連を通じて伝えられるプロパガンダと日本の報道機関の北朝鮮賛美によって、貧困に苦しんでいた在日朝鮮人は祖国への幻想を抱き、帰国事業に駆り立てられた。その背景について、故金英達氏は一言で端的に表現した。

「社会主義へのロマンティズムと現実社会のリアリズム」

※SAPIO2016年11月号

関連キーワード

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
「よだれを垂らして普通の状態ではなかった」レーサム創業者“薬物漬け性パーティー”が露呈した「緊迫の瞬間」〈田中剛容疑者、奥本美穂容疑者、小西木菜容疑者が逮捕〉
NEWSポストセブン
1泊2日の日程で石川県七尾市と志賀町をご訪問(2025年5月19日、撮影/JMPA)
《1泊2日で石川県へ》愛子さま、被災地ご訪問はパンツルック 「ホワイト」と「ブラック」の使い分けで見せた2つの大人コーデ
NEWSポストセブン
男が立てこもっていたアパート
《船橋立てこもり》「長い髪に無精ヒゲの男が…」事件現場アパートに住む住人が語った“緊迫の瞬間”「すぐ家から出て!」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で「虫が大量発生」という新たなトラブルが勃発(写真/読者提供)
《万博で「虫」大量発生…正体は》「キャー!」関西万博に響いた若い女性の悲鳴、専門家が解説する「一度羽化したユスリカの早期駆除は現実的でない」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《美女をあてがうスカウトの“恐ろしい手練手管”》有名国立大学に通う小西木菜容疑者(21)が“薬物漬けパーティー”に堕ちるまで〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者と逮捕〉
NEWSポストセブン
江夏豊氏が認める歴代阪神の名投手は誰か
江夏豊氏が選出する「歴代阪神の名投手10人」 レジェンドから個性派まで…甲子園のヤジに潰されなかった“なにくそという気概”を持った男たち
週刊ポスト
キャンパスライフを楽しむ悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さま、筑波大学で“バドミントンサークルに加入”情報、100人以上所属の大規模なサークルか 「皇室といえばテニス」のイメージが強いなか「異なる競技を自ら選ばれたそうです」と宮内庁担当記者
週刊ポスト
前田健太と早穂夫人(共同通信社)
《私は帰国することになりました》前田健太投手が米国残留を決断…別居中の元女子アナ妻がインスタで明かしていた「夫婦関係」
NEWSポストセブン
子役としても活躍する長男・崇徳くんとの2ショット(事務所提供)
《山田まりやが明かした別居の真相》「紙切れの契約に縛られず、もっと自由でいられるようになるべき」40代で決断した“円満別居”、始めた「シングルマザー支援事業」
NEWSポストセブン
新体操「フェアリージャパン」に何があったのか(時事通信フォト)
《代表選手によるボイコット騒動の真相》新体操「フェアリージャパン」強化本部長がパワハラ指導で厳重注意 男性トレーナーによるセクハラ疑惑も
週刊ポスト
1990年代にグラビアアイドルとしてデビューし、タレント・山田まりや(事務所提供)
《山田まりやが明かした夫との別居》「息子のために、パパとママがお互い前向きでいられるように…」模索し続ける「新しい家族の形」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン