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【著者に訊け】吉田修一氏 『犯罪小説集』

 今作では第1話以外、編集者が用意したリストから気になった事件を書いた。自分で探して傾向が偏るのは避けたかったんです。今の日本で同時多発的に起きている現象を描くなら、極端な話、『恋愛小説集』でもいいわけですし、今後もシリーズ化というと大げさですけど、何かしらの地図は書き続けていくつもりです」

 まずは第1話「青田Y字路」から。愛華が消えて10年。五郎や息子夫婦も表向きは日常を取り戻し、愛華の姿を最後に見た同級生〈紡〉も、今では高校生だ。しかし彼女はあのY字路を通る度、誰かが自分を咎めている気がしてならない。

〈どうしてあのとき、「これから愛華のうちに遊びにおいでよ」という愛華の誘いを断ったんだ?〉〈おまえだけ幸せになっていいのか?〉愛華がいなくなって以来、住人はみな疑心暗鬼に陥り、疑われたのは豪士だけではなかった。〈男たちの誰もが、愛華を連れ去ったかもしれない容疑者だった〉〈そしてその感覚は、徐々に薄れつつあるとはいえ、十年経った今でも、この土地に染み入るように残っている〉

 そんな矢先、第2の失踪事件が起き、人々の怒りは7歳で来日し、男運のない母親以外に肉親も友人もいない孤独な青年を、一気に追いつめていくのである。〈ふと、こいつが犯人なら全部終わるのだ、と五郎は思う〉〈誰かが区切りをつけないことには、このままみんなが駄目になる〉──。

「実際に少女が姿を消したY字路へ行くと、今も目撃情報を募る看板があって、それがもうボロボロに錆びてるんです。その朽ち方を見た時に、この時間を書こう、遺族や町の人が引きずってきた10年を書けばいいんだと思えた。

 僕の関心は事件そのものより、その周辺にあって、例えば相次ぐスナック殺人で僕が知りたかったのは、逮捕された犯人と同じ場所で同時代を過ごした同級生が何を思うかだったりした。そして知りたいから書く、わからないから本人に入り込んでみるというのが僕の最近の書き方で、朝起きると同級生が人を殺した主婦になっていたり、カジノの借金が百億を超えていたり。それでも人間は、生きていかなきゃいけないんです」

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