櫻井:韓国の人口は北朝鮮の2倍で、経済力は50倍以上です。私が不思議なのは、その韓国がなぜ盧武鉉(ノムヒョン)大統領の元側近で極端な北朝鮮シンパの文在寅(ムンジェイン)氏のような人を支持し、自ら北朝鮮に近づこうとするのか、です。
呉:もちろん韓国の国民も金正恩は偽物だとわかっていますし、独裁には批判的です。しかし、韓国は格差が非常に大きくなり、横領や詐欺が横行して、国民は疲弊している。それは韓国が資本主義に毒されて主体性を失っているからだと野党は言うわけです。
一方、北朝鮮は朝鮮民族の伝統を守り、主体性をもってやってきた。主体思想(*2)は儒教がもとになっていて、「わが民族の伝統」に近いため、韓国人には受け入れられやすい面があるのです。特に若者たちは北朝鮮の“古き良き民族の伝統”を持っている部分に同調している面があります。
【*2:北朝鮮の公式な政治思想で、金日成が提案し金正日が体系化したものとされる。「人間がすべての主人である」という考え方だが、事実上、金一族による統治を正当化するために使われている】
櫻井:その「民族の伝統」というのは?
呉:中国や朝鮮では、男子単系の血脈で構成される同姓の血縁集団のことを宗族と呼びますが、韓国の国家観はそれを拡大したものです。韓国では昔から国王のことを「国父」と言い、その正妻を「国母」と呼んできました。北朝鮮が金日成を「お父さま」と呼んだように、朴正熙大統領夫妻は「国父」「国母」でした。それが韓国人の民族意識なのです。だからアメリカナイズされて格差が広がり伝統的な倫理が崩壊している今の韓国よりも、北朝鮮のほうが伝統が守られていていいということになってしまう。
櫻井:うーん、日本人には理解しにくい感覚ですね。
●さくらい・よしこ/新潟県長岡市出身。ハワイ州立大学卒業。元日本テレビ「きょうの出来事」キャスター。1995年、『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』で大宅賞受賞。執筆・講演活動を続ける一方、インターネット放送「言論テレビ」を運営中。
●オ・ソンファ/1956年韓国済州島生まれ。東京外国語大学大学院修士課程修了。現在、拓殖大学国際学部教授。『「反日韓国」の苦悩』(PHP研究所刊)、『朴槿恵の真実』、『侮日論』(いずれも文春新書)など著書多数。
※SAPIO2017年1月号