「じゃあさ」

 と私は言いました。この「じゃあさ」はズルい「じゃあさ」ですね。

「シチュー作る時間なくなっちゃうけど、探してみるね」

 軽くこう続けてみました。すると…。

「え?? もう作ってると思ったよ」

 そう、彼は思いっ切り期待してたんですねぇ。頭にシチューがオタマでてんこ盛りに盛られてるような…そんな声だった。

「あっうん、わかった…、両方やってみるよ!」

 電話を切って大慌てでシチューを作り、煮込んでいる間に私はスカートを探した。鍋の中でフツフツと煮えるシチューを眺めながら思いました、人の気持ちって、こんなちっちゃな入り口からでも見えこぼれるものなんだな、って。

 いつも私が「ごめんね、平日はなかなかごはん作れなくて」と言うたびに「全然大丈夫」って言ってくれてたから、今回もそうだと思っていたけど、その言葉の裏には違う気持ちも仕舞い込まれていたんだな、と。

 大人になると自分の気持ちを丸出しにして生きていくわけにはいかないから、気持ちとは裏腹なことを言ってることがたくさんありますね、私も含めて。だからつい、相手の本当の想いに気づかないままになってしまう。でもだからこそ、たまには表に出ている部分の向こう側にこっそり隠れているものを見つけ出してあげないといかんな、と。

 10年近くも夫婦をやってるのにわかんなかった。夫婦でさえこうなんだから、友達や仕事でおつきあいしている方たちのことで、どれほど気づいていないことがあるんだろう。いつもまわりにいてくれる、人生のレギュラーメンバーと、どれだけ丁寧につきあっていけるかって、すごく大切なことだと一杯のシチューが教えてくれた夜でした。

撮影■渡辺達生

※女性セブン2016年12月22日号

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