だが9話目(12月6日放送)のラストは、ついに平匡の口から「ずっとみくりさんがぼくのこと好きならいいなと思っていました」と彼なりの言葉で「告白」するという重要なシーンだった。放送は時間にして7分ばかりだが、それに関して番組の公式ホームページによると、実際の撮影時間は5時間かけたという。しかも掛け合いについて事前に話し合うことはせず、リハーサルで芝居を何度も重ねて、どういった表情やリアクションが一番それぞれのキャラクターらしいか話し合いながら撮っていったそうだ。
これはまさに映画や、舞台での演技プランの練り方である。オンエア中の視聴者のSNSをチェックしていると星野源はさることながら、劇中の「津崎平匡」のファンがかなり多いのは、そういった役どころを、リハーサルを重ねて星野自身が自分のものにしていることが、画面を通して自然と伝わるからではないだろうか。
また、文科系男子や非モテ男子はどうしても、アニメ好きで…というように漫画的な描き方をしてしまいがちだが、そうしたステレオタイプの人物描写をやめて、不器用だけど、どこかで根を張って生きている「人間」として津崎を描いたことで、ドキュンメタリー要素が強まった。
本作は今までの恋愛ドラマのように、恋の糸が複雑に絡み合うこともなく、基本的には最初の人物相関図から大きく変動することはない。全編に一貫して流れているのは、平匡とみくりという不器用な2人の心の通わせ合いだ。ちなみに7話目(11月22日放送分)、2人だけのシーンがどのくらいあるか数えてみると正味48分中19分30秒あった。半分近くが津崎とみくりの共演場面だ。一見地味な展開だが、逆に言えばより濃厚に心理描写を描くことができるので、見応えも増す。
いずれにしても、モノローグで語られている言葉を拾い集めるだけでラブソングがいくつも書けそうなくらいの「想いの埋蔵量」に、劇中の半分を占める「2人芝居」を飽きさせないための「背景」のあるキャラクター作りと、綿密なリハーサル。こうして手間暇かけて作られる『逃げ恥』、12月20日の最終回が大いに楽しみになってきた。 (芸能ライター・飯山みつる)