◆危ないのは「下げすぎ」
ポイントは“下げ方”にありそうだ。イタリアの同研究では、薬を飲んで「128以下」まで血圧を下げた患者に、認知機能の低下が顕著だった。石原氏が続ける。
「このイタリアの研究は例数が多いとはいえず、断定的に結論を導き出せるほど信頼度が高い研究というわけではありませんが、問題が“過度な降圧”にあることを示唆した結果ではあります。
血圧コントロールと認知機能低下の関連を調べた研究は少なく、さらなる研究が待たれるところですが、いくつかの条件に当てはまる人は薬による過度な降圧には注意が必要でしょう。たとえば、すでに軽度の認知症と診断されていたり、急性脳梗塞を起こした後の患者さんの場合、脳内に辛うじて血流が保たれている箇所があり、薬で血圧を下げるリスクが大きくなると考えられます」
年齢も重要なファクターだ。年齢によって望ましい血圧水準は異なる。前出・小林氏の解説。
「健康な若い人であれば、血圧が多少上下しても、“脳の自動調節機能”によって、脳の血流を一定に保つことができます。しかし、動脈硬化が進んでその機能が衰えてきている高齢者の場合、調節機能が不十分になり、降圧剤で血圧を下げ過ぎると脳に血が行き渡らないリスクが高くなる可能性があります。75歳以上になったら、血圧が150くらいあってもそれほど気にしなくていいと考えるべきでしょう」
当然ながら、急激な血圧低下は薬の効能としてもたらされるものだ。つまり、「薬に頼らずに適度な運動や食事制限など生活習慣の改善で血圧をゆるやかに下げる方法を取れば、認知症リスクを避けることにつながる」(医療経済ジャーナリスト・室井一辰氏)という点も、忘れてはならない。
※週刊ポスト2016年12月23日号