ライフ

【書評】バブル時代を知らぬ若い世代に向けた最高の資料

 年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。評論家の坪内祐三氏は、アベノミクスを読み解く書として『バブル 日本迷走の原点』(永野健二・著/新潮社/1700円+税)を推す。坪内氏が同書を解説する。

 * * *
 どうやらアベノミクスは不発に終わったようで、私はほっとしている。アベノミクスの成功すなわちバブル景気の復活は想像するだけで恐ろしい。

 バブル時代を一九八五年から九〇年までとしよう。私は大学院を一九八六年三月に修了し、ニートな時代を経て、一九八七年九月に『東京人』編集部に入り、九〇年九月末、同編集部をやめた。

 バブルという言葉はあとから付けられたもので、当時はそういう呼び方はなかったはずだが、私はとても居心地が悪かった。しかし一方でその恩恵もこうむっていた。ニートでいられたのはダイヤモンド社の社長であった父のおかげだし、手取り二十万弱の安月給で充分生活出来たのも実家暮しだったからだ。

『東京人』の編集者としてバブル景気というものが実感出来た。私がちょうど入った頃に出た緊急増刊『東京湾ウォーターフロント』特集号はバカ売れした。編集長の粕谷一希をはじめとするスタッフは、いわゆる“街殺し”を心良く思っていなかったけれど、東京都の発行する雑誌だから仕方なかった。『東京大改造の時代』という増刊号も売れた。校了が近づく頃になるとユウウツだった。

 当時『東京人』の編集室は飯田橋にあった。チェックしたゲラを市ヶ谷の大日本印刷に届ける時には終電は終わっている。めったに走って来ないタクシーをつかまえて、市ヶ谷の大日本印刷を経由して世田谷の赤堤(私の自宅)まで、と言っても乗せてもらえなかった。その時間、一万円以下の客はカスだったのだ。私は深夜喫茶で始発を待った。それが私にとってのバブルの時代だ。いま振り返るとかえって良かったと思う。

 しかしバブルの時代を知らずアベノミクスに期待を持った人たち(特に若者)にその実態を知ってもらいたい。そのための最高の資料がこの一冊だ。

※週刊ポスト2017年1月1・6日号

関連記事

トピックス

大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン
実業家の宮崎麗香
《セレブな5児の母・宮崎麗果が1.5億円脱税》「結婚記念日にフェラーリ納車」のインスタ投稿がこっそり削除…「ありのままを発信する責任がある」語っていた“SNSとの向き合い方”
NEWSポストセブン
峰竜太(73)(時事通信フォト)
《3か月で長寿番組レギュラー2本が終了》「寂しい」峰竜太、5億円豪邸支えた“恐妻の局回り”「オンエア確認、スタッフの胃袋つかむ差し入れ…」と関係者明かす
NEWSポストセブン
シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン