国内

石田衣良氏の年頭所感 「新海誠氏と宮崎駿氏の違いは」

作家の石田衣良氏

 2016年と2017年の日本と私たちはどうあったのか、あるべきなのか。直木賞作家・石田衣良氏にインタビューをお届けする。(取材・構成=フリーライター・神田憲行)

 * * *
 2016年の日本は貧しさから社会への不満がいよいよ露わになった年だったと思います。そのひとつが差別意識です。

 僕のツイッターは本の話とかその日の出来事をつぶやくくらいの穏やかなものなんですが、それでも突然「朝鮮土人は半島に帰れ」みたいなメッセージが送られてくることがあります。世界情勢が100年前と似ているとつぶやいたぐらいなんですが。よくわからないけれど、偏見がすごいんだなと思った。

 昨年、沖縄県で警察官の「土人」発言がありました。みんな貧乏を取り繕えなくなって、むき出しの差別意識が露わになってきました。ファッションと同じで、ネクタイとかジャケットを脱いでいるんですよ。今は自分だけこんだけ辛い目にあっているという嫉妬の時代ですかね。不倫した芸能人叩きとか、落ちていく人を叩くのはすごいですよね。

 ただ貧しさへの不満の現し方が日本と世界では大きく違う。世界は投票行動にでますよね。アメリカでトランプさんが選ばれたり、世界で強権的な指導者が現れているのはそういう理由です。日本では自分が諦めて誰とも付き合わずに孤独死するか、身近な人を叩いて世界の諦めを表現します。若い人は「日本、死ね」だと思いますよ。

 待機児童の問題で「日本死ね」と書いた個人ブログが話題になりましたけれど、あれは時代の空気をよく吸い取ってますねえ。アメリカだと、良いか悪いかは別にして、スローガンの言葉が「もう一度偉大な国に」という前向きに出てくるのに、日本はテレビ番組でやっている「日本最高」か「日本死ね」しかない。中間がない。

 日本は世界の大きな流れから閉じて、内輪の東京の話で盛り上がっているという気がします。映画もそんな感じがしませんか。アニメと特撮という「オタクコンテンツ」がもう完全にスタンダードになりました。僕はポップでみんなで楽しめるものが好きだと思っていたんですが、最近は大衆的なものがあまり楽しめない自分がいて、不思議です。

 80年代の音楽界で「産業ロック」という言葉がありました。ジャーニーとかエアロスミスとか。成功の方程式がわかって、商品として完成されていく音楽です。今もそういう時代かもしれませんね。小説も「産業小説」が来ていますね。読者が自分から求めに行って、ハラハラドキドキしながら学んだりするものではなくて、マッサージチェアのように、読者をそのままの形で癒やしてくれる居心地の良い小説だけがメインになった。みんなが怒っているから怒りを書く。読者をくすぐるような小説です。そこで消耗するのは嫌だなあ。

 一方で「ポケモンGO」にはとても感心しました。いちばん下の子が小学校1年生なんで、ポケモンを探しによく一緒に都内の大きな公園に行ったんですが、面白かった。よく考えられているし、できているなと思います。ゴジラでもそうですが、ともかくストーリー作りキャラ作りが巧い。その背後にロジックがあったり、時代の変化みたいなのを全く写さないんですけれど、ともかく魅力的なキャラを作り出して世界中にばらまくのは日本人は強いんですよね。

 漫画家の人たちの定見はないんだけれど、とにかく面白い漫画を作れるというのと似ている。「東京喰種」とか「進撃の巨人」とか、直感で今の世界の在り方をシンボリックに落とし込んで、強引に面白い話に作りかえる力って、日本人はすごいと思います。ようは人が人を食うような怖い世界で、巨人はブラック企業で、ニタニタ笑い歩きながら人を食っていく。若い子の絶望感もよく表れている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン