「いつ歯の治療をしましたか」、それが、前述の『国立国際~』の医師に最初に聞かれたことだった。
「意識が朦朧としているなかで、下痢や嘔吐、激しい咳や、胸の痛みとはまったく関係ない歯のことを聞かれたので、ちょっと面食らってしまいました。私が歯医者にかかったのは、産後少し落ち着いた2015年秋くらいだったので、そう伝えると、先生は“それじゃないみたいね…”とおっしゃいました。なぜそんなことを聞くのか尋ねると、歯医者の治療で、歯茎とかが傷ついて血が出ることがあるけれど、その傷口から感染するのは、よくあるケースとおっしゃってました」
通常は感染しても喉の痛み程度で、大事に至らないことが多い。だが、「劇症化」すると菌が体内で急激に増殖し、全身に回ると手脚の壊死や多臓器不全を引き起こす。
「先生に関節すべてを『痛くない?』って調べられました。私は痛くなかったけれど、もし痛かったら、そこから先は切らなきゃいけない。痛くなったところから壊死するようです」
川上さんは体内の菌を殺すため抗生剤の点滴を始めたが、その菌の死骸が心臓と胸骨の間に膿として大量にたまった「膿胸」という状態を引き起こしていた。そのためこの膿を取り除くための緊急手術を受けることになったという。しかも、それで終わりではなかった。手術後も1か月以上にわたって1日8本の抗生剤を3時間おきに点滴した。
そうして徐々に回復していったが、結局最後まで、いつ、どうやって感染したのかは明らかにならなかった。しかし、「劇症化」の心当たりはあった。
「あの頃は子供がかわいくってハイテンションでした。疲れを感じなかった。でも、妊娠・出産直後の免疫が落ちた状態で、母乳を搾り出しているわけじゃないですか。そりゃあ当然、体力を持っていかれますよね。ハイテンションだけでは、乗り切れなかったんでしょうね」
◆経過観察は一生続く