危険なのはフィリピンのドゥテルテだ。トランプとの電話会談で「あなたはよくやっている」と言われて舞い上がったドゥテルテは、「私は、聖人君子になった気分だ」と語った。2人はすっかり意気投合したようだが、テロリストに狙われる可能性もトランプと同じように高い。
「麻薬犯罪撲滅」を掲げて裁判なしでの容疑者の殺害も容認しているドゥテルテは、すでに5000~6000人の麻薬犯罪者らを殺害しているとされる。国内の支持率は9割以上ながら、ドゥテルテは麻薬密売組織から常に首を狙われている状況だ。
トランプとドゥテルテの共通点は、「分かりやすい敵」を作って徹底的に攻撃することで、国民の支持を高めるというところだ。しかし2人とも、人気取りのために敵を作りすぎた。それが、彼ら自身を危険に晒す原因となるのだ。
例えばトランプは、“アメリカ国内の雇用を守るため”として「アメリカから国外に移転した企業の製品には、35%の関税を課す」と打ち出した。このことは、グローバル企業を敵に回したことになる。
一見、これで企業の国外移転が減り雇用が守られるように聞こえるが、大企業にとっては、アメリカ国内で事業を続ければトランプの“鶴の一声”でどんなリスクに晒されるか分かったものではない。トランプ大統領誕生でアメリカのビジネス環境は「一寸先は闇」になったのであり、賢明な企業なら国外移転を加速させるはずだ。
そもそもアメリカ国内の雇用を増やすということは、新興国の安い人件費ではなく自国の高い人件費で作った商品を消費者に買わせるということであり、物価上昇を招く。国民は、激しいインフレで苦しむことになるかもしれない。
そう遠くない未来に、アメリカ国民全員がトランプを敵視するようになるだろう。
※SAPIO2017年2月号