脚本は坂元裕二氏。だからこそ、セリフに他には見られない特徴が。例えば「私とあなたは合わない」といったストレートな説明口調は排除されていて、かわりに「唐揚げにレモンをかけるってことは、不可逆。二度と元には戻れない」。その「レモンするかしないかで、(価値観は)分かれる」といった風に、常に「何かにたとえて」「置き換えて」人間関係を語る。
村上春樹風レトリック。レイモンド・チャンドラー的言い回し。あるいは人生への洞察を端的な言葉に落としたアフォリズム集。凝った詩的な言葉を、感情を排した棒セリフでぶつけあう。
かなり「異色」です。が、実はこうした手法、舞台芝居では時々お目にかかる演出。日常の中に非日常の空間を立ち上がらせるのにはうってつけ。しかし、テレビドラマにおいてはアバンギャルドな面白さ。
画面で思いっきりやられたら、その斬新さにハマる人もいれば、馴染めずに引いてしまう視聴者も出てくるはず。その意味でまさに『カルテット』は、好き嫌いがはっきりと分かれる、個性的な仕上がりのチャレンジングなドラマです。
と一見、対照的な2つの作品。オーソドックスなスタイルで、筋だてで引っ張っていく『嘘の戦争』と、アバンギャルドに一つ一つのシーンを切り出す、セリフ劇『カルテット』。火曜の夜、2つをセット視聴がオススメ。最強のドラマ世界が楽しめるはず。いかにドラマが多彩で豊かで楽しい娯楽かを思い知る、至福の時間になること間違いありません。