長尾氏は、家族が安楽死と尊厳死の違い、それぞれの正確な意味や内容を知らず、誤解をしていることも混乱の原因になっていると話す。

「ただ、何が過剰で、無駄な延命治療かの判断は非常に難しい。脳死でも生きていることに意味があるという家族は沢山いる。だから、私も毎日、『自分がやっている医療が患者の利益になっているのか』と葛藤しているのです」(長尾氏)

 長尾氏のように、家族の意思を尊重するという医師は少なくない。『看取りの医者』の著者で、ホームオン・クリニックつくば院長の平野国美氏もその一人だ。

「私は自分から患者さんに対し、終末期の延命治療を拒否するという意思を文書で示す『リビング・ウィル』を求めたことはない。なぜなら、治療が必要になった時、実際に延命治療を行なうかどうかの判断をするのは家族だからです。

 亡くなるのは患者さん自身ですが、死ぬ時になって家族も“これで良かったんだ”と納得できるようでなければ、私は『穏やかな死』というものは成立しないと思っているからです」

 誰もが安らかに死にたいという思いを持っている。だが、理想通りにいかないのが現実である。だからこそ、死に携わる医者たちは、日夜、苦しみ、葛藤し、患者と向き合うのだ。

※週刊ポスト2017年2月17日号

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