最近は、熱海がテレビなどで紹介される機会が増え、それを見た人たちによる観光が増えている。地元の人たちの間では「山田さんのおかげ」「本当に、よくやってくれていると思います」という声も聞かれる。
熱海市では2012年から、山田さんが先陣を切ってテレビのバラエティーやドラマなどのロケの誘致プロジェクトを進めてきた。これによって、それまでは年間40本ほどだったロケの数は2014年度に100本を超え、2016年度は120本まで達する見込みだ。
山田さんは2001年に、中途採用で熱海市の職員となった。その頃も熱海は長い低迷の渦中にあった。観光経済課に配属となり、熱海復活の即戦力として大きな期待を担った。山田さんはさまざまなイベントを企画したり、都内の駅で観光誘致のためのビラ配りをしたりと、熱海をPRするため試行錯誤を繰り返した。それでも右肩下がりの状況に歯止めがかからない。
山田さんはあるとき、商店街や地盤産業を取り上げるテレビ番組のロケに立ち会っていて、スタッフの言葉からあることに気づかされた。
「『熱海には、結構ネタがありますね』と言われたんです。確かにそうだなと思って、こちらもビーチやヨットハーバーなどおすすめの場所の紹介を積極的に続けたところ、その番組では3か月間も、熱海のことを扱ってくれたんです」
テレビの影響は絶大だった。そこで山田さんは、バラエティーに富んだ熱海の魅力を、常にネタを探しているテレビ関係者に向けて発信していくことにした。例えば、熱海の港から船で30分の距離にある初島ではリゾート気分が味わえることや、レトロで食事もコーヒーもおいしい純喫茶が多く、一方で今風のおしゃれなカフェも増えていること。さらには、夏の風物詩の花火大会が、ここ熱海では3月から12月までは毎月、開催されていることもだ。
そういったことを、熱海市のサイト内に設けた「ADさんいらっしゃい」というページに盛り込み、そこに自分の携帯電話の番号も載せた。ポツポツと鳴り始めた携帯はやがて、ひっきりなしに鳴るようになっていく。今は24時間365日態勢で、ロケの要望に応える毎日だ。
ちょっと難しいのではないかと思われるようなリクエストにも、知恵を絞って応えてきた。決して無理とは言わず、あきらめない。