このような懸念がある一方で、鳴戸親方の抱いていた志は、貴乃花親方に通じるものがあると見る関係者も少なくない。先代の鳴戸親方をよく知る元親方はこういう。
「隆の里も貴乃花も、“変人”といわれるくらいガチンコ相撲を貫き通した横綱で、よく似ている。
鳴戸親方は、派閥が真剣勝負の邪魔になると指摘したり、各部屋のパワーバランス均衡と過度なスカウト合戦を防ぐ『新弟子ドラフト制度』の導入を提唱したりするなど、改革派の急先鋒だった。悪しきしがらみにとらわれない姿勢は貴乃花に通底するところがある」
そう語った上で、過去の理事選における因縁は障害にはならないとの見方をした。
「先代の鳴戸親方は愚痴をいわない人でした。だから2010年の理事選の出馬断念の経緯も恨みがましく話していない。貴乃花親方への憎しみが弟子たちの間にあるとは思えない。むしろ、稀勢の里は貴乃花を尊敬してやまないはずです。先代の鳴戸親方の指導以外には耳を傾けないといわれていた稀勢の里ですが、入門のきっかけには貴乃花親方への憧れがあったし、過去には巡業中に直接四股の基本を教わっていたこともある」
新たに大相撲の“顔”となった稀勢の里と改革派グループである貴乃花一門が手を組めば発言力がいや増すことは確実で、理事長選の行方を左右する大きな動きが巻き起こる可能性が十分にある。
そうした動きによって土俵上の真剣勝負がさらなる盛り上がりを見せるのであれば、新横綱誕生に胸躍らせるファンも後押しするはずだ。
※週刊ポスト2017年2月24日号