〈新宿の場合、新しいこと、思い切ったことをやれば絶対に成功します。お客様もそれを期待しています。でも守りに入った瞬間、お客様に支持されない店になってしまいます。その見極めがまだまだできていません。
(中略)
それでも最近は若い人はずいぶんと変わってきました。ところが、上へ行けばいくほど守りに入っています〉(『月刊BOSS』2015年8月号のインタビュー記事より)
かつて「攻めの伊勢丹、守りの三越」と揶揄されていたことを考えると、この発言も暗に旧三越批判と取れなくもないが、結果的に大西氏の目指した百貨店改革は、道半ばで途絶えることになった──。
3月7日、三越伊勢丹ホールディングスは突如、大西氏の退任を発表し、後任に伊勢丹出身の経営戦略本部長で取締役専務執行役員の杉江俊彦氏(56)を充てる人事(4月1日付)を決めた。
「大西体制が足かけ8年と長期にわたっていること、そして、直近の業績不振(注/2016年4~12月期の営業利益が前年同期比36%減の196億円)で旗艦店の新宿本店ですら減収にあえいでいることを考えると、経営責任は避けられなかった」(前出の流通アナリスト)
という見方が一般的だが、一部の報道では〈リストラの一環として、千葉、多摩センターなど旧三越店ばかりを閉鎖する大西氏に、三越出身幹部から不満が噴出した〉との観測記事も飛び出した。真相は籔の中だが、それだけ両陣営の遺恨は根深いのかもしれない。
月刊BOSSの河野氏は、「この期に及んで言っても始まらないが……」と前置きしたうえで、こう話す。
「大丸と松坂屋、阪急百貨店と阪神百貨店など、これまで経営統合を決めてきた百貨店は、みな吸収合併に近い形で力関係がはっきりしていました。それに対して、三越と伊勢丹はお互いにプライドを譲らず、指揮・命令系統がガチンコでぶつかり合ってしまった感は否めません。
そもそも、業績的にも売り場的にも押せ押せだった伊勢丹が、百貨店業界でもっとも官僚的といわれていた三越と一緒になったこと自体、本当に正解だったのか。今から振り返るとそう思わざるを得ません。シニア層に人気の老舗百貨店といっても、三越は日本橋と銀座以外は振るわなかったわけですし。
出身母体にかかわらず、いずれ店舗だけでなく人材面でも痛みを伴うリストラしなければ利益が確保できないことは分かっていたはず。過去にそれをやらなかったツケが今一気に回ってきたともいえます」
次期社長の杉江氏は、今回の人事で大西氏とともに退任予定の石塚邦雄会長(67・三越出身)に近い人物ともいわれている。新体制は今後、苦戦続きの百貨店ビジネスの練り直し以前に、“ミスター百貨店”でも成し遂げられなかった社内融和を10年越しで図らなければ、看板そのものの存続も危うくなるだろう。
写真提供■月刊BOSS編集部