◆ホステスはいくら金銭を使うかで愛情を測る
ひとりになった私は、心機一転。キャバレーから、錦糸町でいちばん高級なクラブに移って、引っ越しもして。私、自分で言うのもナンだけど、水商売が合ったのよ。わずか4か月でその店のナンバー1になったんだもの。
客と寝ること? それはもう、つきものだよね。そんなこと、いちいち気にしていたらやってらんないって。ライバルのホステスとナンバー1争いをしている間に、彼氏みたいな男は何人かできたけど、しょせん客は客。
ホステスにとって、自分を好きということは、売り上げに貢献してくれること。私にいくら金銭を使うかで愛情を測る。半年でも水商売でご飯を食べた女はそういうもの。それと矛盾しているけど、お金お金、というほどお金に執着していないのも本当なんだよ。男ができるとすぐに貢ぐのもホステスなの。
◆初恋の人が店に客でやってきた!
20代半ばになると、私にも安定したパトロンがついて、売り上げも生活も落ち着いてきた。でも、人生って皮肉だね。見計らったように、とんでもない出会いがあったの。なんと、高校時代に妊娠して別れた元彼が、仕事関係の人と店に来たのよ。顔を見た瞬間、彼は、ドレスを着た私が誰かわからなかった。私はどきーんとしながら、「ヨシオカさん?」とかけたけど、声が震えてた。
彼は大学を卒業後、田舎に戻って、地元の商工会議所に就職していたの。すぐに深い関係になって、月に1回のペースで彼は上京して来た。それを私は待ちきれなくてね。数え切れないくらい田舎に足を運んだわよ。
パトロンには、正直に事情を話せばわかってもらえると思ったけど、甘かったわ。初恋だの、最初の男だの、彼には関係ないことだもの。それまで出してくれていた家賃を打ち切られ、そのうち店にも来なくなったわ。
◆「おれ、子供がかわいいんだ」と言われ、目が覚めた
彼はすでに結婚して子供もいたけど、私がホステスになったのは、自分が逃げたからだと思っていてね。ホステスをしている私を認めてくれたの。もっとも、ホステスは客にお酒を注いで話し相手になるだけ、と彼は思っていて、ダークな部分など想像もしてない。
この彼をどうしても自分のものにしたいと格闘したのが、私の26才から33才まで。今思えば、ずいぶんと尽くしたよね。ふたりで会うときのホテル代から飲食代もすべて私だもの。それで私はよかったんだけど、だんだん彼の方がつらくなってきたのよ。
ある時、上野の行きつけの居酒屋で飲んでいるときに、「おれ、子供がかわいいんだよな」と言ったのよ。胸の中の重たいものを吐き出すように、ふぅ~っと。だから私とはこれ以上続けられない、とは言わなかったけど、その一言で私は目が覚めたの。
彼の妻には勝てても、子供には勝てないと。子供から彼を奪っても、絶対に幸せにはなれないって。それから、彼とは会っていないけど、今でも彼のことを思い出すよ。私が本当に好きになった人だもん。