そんな時、高橋氏のもとを訪れた。

「普通、抗がん剤の投与量は、体表面積(全皮膚面積)によって決められます。Aさんは前の病院でジェムザールを1000mg投与されていましたが、骨髄抑制の程度からAさんの適量が600mgだと分かり、その量に減らして治療を再開しました。結果的に、ほぼ寝たきりだったAさんは自分で歩いて通院することが可能になり、それから5年以上生存しました。

 一般的に抗がん剤は副作用が重いと考えられますが、それは薬そのものでなく投与量が原因なのです。年齢などの個人差を無視した投薬治療は、効果より副作用の弊害が上回り、患者を苦しめる。とくに高齢者への投薬量は、個々の適量を見極めることが重要です」(高橋氏)

 これは抗がん剤に限った話ではない。2015年12月、医療従事者向けに発表された「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では、こんな注意喚起がなされた。

〈高齢者では代謝低下による最大血中濃度の上昇や排泄低下による半減期の延長から薬物血中濃度が上昇しやすい〉

〈実際の投与に際しては(中略)高齢者では少量(一般成人量の1/3~1/2程度)から開始して、効果と有害事象をチェックしながら増量する心がけが重要である〉

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