ライフ

東山彰良氏の直木賞作品『流』に息付く日中台の血統

作家・東山彰良氏 撮影/太田真三

 ベストセラー作家・東山彰良(あきら)氏は、台湾で生まれ、日本で育った。直木賞を受賞した『流(りゅう)』(講談社)は、日台両国で暮らした東山氏の体験を、文学的に昇華させた作品である。

『流』の主人公のモデルは父であり、祖父の人生も投影されている。祖父は中国山東省の出身で、国民党軍に参加し、共産党と戦った。1949年、子供だった王孝廉ら家族を連れて、毛沢東に敗れた国民党とともに台湾に渡った。

 そんな一族の運命のエッセンスが詰まった作品に、父の詩が収録され、日本でベストセラーとなった。『流』は紛れもなく、王一族の一世紀におよぶ中国から台湾、台湾から日本への「漂流」の日々が生み出した作品である。そればかりか、父・祖父をあわせた三代の記憶が継承されていた。ジャーナリストの野嶋剛氏がつづる。

 * * *
 東山が作家として独り立ちするまでの道のりは決して平坦ではなかった。大学卒業後、東京で中小の航空会社に就職する。普通のサラリーマン人生を歩むかに見えたが、会社には馴染めない気持ちが強かった。ある日、通勤の途中の代々木上原駅で、見知らぬ相手と殴り合いの喧嘩を演じてしまう。

「肩がぶつかった程度の小さいことですが、友人から、それはストレスだよと言われ、このまま東京にいたらもっとひどいことをしでかしそうだと思い、会社を辞めようという気持ちが固まりました」

 次に進んだのは研究者の道だった。日本の大学院で修士号を取り、博士号を取るために中国東北地方の名門・吉林大学の門をくぐった。専門は、いまの東山から想像はつきにくい農業経済だ。日本の過疎地で耕作放棄の農場を国有化し、若い人に農業参加の機会を提供するプランを提案する内容だったが、そこでも東山は挫折を味わう。論文を書き上げられずに学業を中断し、日本に戻っている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

雅子さまが三重県をご訪問(共同通信社)
《お洒落とは》フェラガモ歴30年の雅子さま、三重県ご訪問でお持ちの愛用バッグに込められた“美学” 愛子さまにも受け継がれる「サステナブルの心」
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
「とにかく献金しなければと…」「ここに安倍首相が来ているかも」山上徹也被告の母親の証言に見られた“統一教会の色濃い影響”、本人は「時折、眉間にシワを寄せて…」【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
部下と“ホテル密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト/目撃者提供)
《前橋・小川市長が出直し選挙での「出馬」を明言》「ベッドは使ってはいないですけど…」「これは許していただきたい」市長が市民対話会で釈明、市議らは辞職を勧告も 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン